ほしぞら1/2

ぽつぽつ書いている二次創作小説たち。ジャンルごった煮。Twitter@bbb_kzs

#リプもらったCPで短編を書く

文字書きリハビリ用に作ったタグなので、ジャンルごった煮です。

もらい次第また更新していきます。

リクエストあればお気軽に→ #リプもらったCPで短編を書く

2016.01.29.

 

 

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【三金】紫燻る夜の夢



彼が姿を消してから数週間経った。自分の生きている時間にしてみればほんの一瞬のような時間、けれどもそれは今までの人生を生きているのと同じぐらいの時間を感じるのだから不思議なものだと思う。彼は何を思っていたのか、いまだに理解しきれないところはあるけれど、彼が自分の隣にいたのはたしかなのだ。机の上、ずっと置かれてもう定位置のようになってしまった煙草の箱はこの自分たちのいる世界にはないものである。なにを思ってこれだけ残していったのかはわからないことだけれど。

彼について知っていることはたくさんあっても、彼の口から聞いた話は数えるほどなのだ。彼の言葉を聞くよりも、確実に彼がくゆらせる紫煙を見たほうが多いだろう。

「……金蝉?」

物思いに耽っている間に、こっそりといつの間にか近くに来ていたらしい、小柄な体躯が扉から顔を出した。その顔に浮かぶのは、自分に対する心配、だろうか。

「どうした、」

はぁと思わず漏れたため息に、目の前の少年ーーと呼んでいいのかはわからないがーー、悟空がびくりと肩を揺らした。別に彼を咎めるつもりなんぞなかったのだが。

「なんだ、なにか用事か?」

「……なんでもない。お菓子、食べる?」

「…いや、今は仕事中だからな。やめておく。」

「そんなこと気にするなんて。」

「あ゛?」

「…いつもの、金蝉だ。」

そういえば叔母である観世音菩薩も、彼女は何も言わないが、悟空と同じような瞳をたまに自分に寄越しているのはなんとなしに気づいていた。いつも通りの世界、美しき世界は今日も今日とてなにも変わりはしないのだ。その世界には不安因子を体現しているような、不器用にでもどこか優しい、自分と鏡を向かい合わせているような彼はいない。

「……こん、「世界は、希望に溢れているの。……心配するな、お菓子を食べてくるのだろう。さっさと行け。」

ぐらりと傾きかけた心を察したのか、呼ばれかけた名前を遮るように言葉を紡ぐ。にっこりと上げた口角は上手くいっていたらしい、うん、と元気よく笑って走り去った悟空にそっと安堵の息が漏れた。けれど、その背中を見送った自分がどんな顔をしていたのかは、知る由もない。否、知りたくもない。

「全く、どこほっつき歩いてるんだあの馬鹿。」

何に対してなのか自分でもわからなくなるような、苦笑が漏れる。ガタリと椅子に体を投げ出して、事実から逃げるように抱えた山のような書類から逃れるように外界から遮断すれば、瞼の裏に闇夜に揺らめく紫煙が映ったような気がした。

「…………どうしようもない。」

零れた独り言に返ってくる言葉は、ない。


*


金蝉童子は、内緒話をするように声を潜めて最後の嘘をつきました。

それは歩き出すための嘘でした。

「世界は希望に溢れている」、と。

…どうしようもないな。

2016.03.29.

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【レン春】微熱の微睡み



優しい思い出の中に居たような気がした。

どこか懐かしく感じるのは、体調を崩すこと自体久しぶりだったからなのかもしれない。遠い記憶の中で見た夢は心地よく、それでいてほのかに甘い。そしてなにより、さようならを告げられた夕闇のような切なさも孕んでいるのか、といつもより熱い頭の隅で思った。そんなこと気づいたところで、体調がよくなる訳もないのだけれど。


ひんやりとした感触に重い瞼を持ち上げれば、そこにはいつも見ている彼女の姿があるった。

「...起こしちゃいましたか?」

そっと首を横に振れば、ほっと安心したように彼女は再び自分の額を拭っていた手を動かし始めた。手を伸ばし、彼女の肩口で切り揃えられた毛先に触れれば、その瞳がふっと曇ったような気がした。

「...ごめんね、ハニー。」

「別に大丈夫、です。」

口からついてでた謝罪の言葉には、ふいっと顔を背けられてしまった。彼女も仕事が立て込んでいる時期だ、ただでさえ忙しい時期なのに不安にさせてしまったのだろう。きっと彼女のことだから仕事をちゃんと全うしながらも、気にしてくれていたのだろうから。

「不安にさせてごめん、春歌。」

「...無理っ、しすぎ、です。」

今度こそ逃がさないように、瞳いっぱいに溜まった水の膜をそっと指先で拭った。

「ちゃんと、休まなきゃ。」

一筋、しずくを落としただけで彼女の瞳は強く光をもつのだから思わず苦笑いを零しそうになってしまった。

立場が逆転したように今度はゆるゆると一定のリズムで頭を撫でられる感覚に、再び瞼がゆっくりさがってくるのを感じる。身体が重い。


夢の中で聞こえた遠い声とまぶたに落ちたやわらかな感触は微睡みの中におちて、溶けていった。

おやすみなさい、また明日。


2016.03.18.

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【ししさに】僕らはまだ知らない



ぱさりぱさり、と部屋は審神者がめくる書類の音だけが響いている。

「...あるじー。」

普段別に仕事をサボっている訳ではないはずなのに、何故か仕事を自分で請け負ったり作ったりといつもなにかしら仕事に追われている主は"どえむ"というやつなのだろうか。つい数日前に乱に教えてもらった主が生きている時代の言葉を獅子王は思い出した。

「なあに、獅子王。」

獅子王の言葉に返事は返って来るも、その視線は依然として目の前にある書類の山とにらめっこだ。面白くない、とっても面白くない。必要最低限の仕事はとっくに終わっていることはわかっている、そこまでは獅子王も手伝ったのだから。

「もう仕事なんて辞めようぜー。それ主がやる分じゃないだろ、おやつだって光忠も言ってたし。」

「...んー、獅子王行ってきていいよ。」

「主も行こうぜ〜。」

「...これ終わったら行く〜。」

「あるじ、」

何度獅子王が声をかけても彼女は視線をちらともあげず、手を止めないまま返ってくるのは生返事ばかり。バンッと思わず書類にほとんどが埋められている文机、彼女はまさにいま作業しているところを叩く。こちらを見ればいいのに。

「...ん?」

勢いに任せて叩いたものの、その衝撃に数枚舞い上がったのを目の端で確認して少しだけ冷静になった。それと想像以上に、近い。

きょとんと顔を上げた彼女のぱちりとひとつまばたきを落とした睫毛が、くるんと上を向いているのが見えるぐらいには。案外長いんだなとか女の子なんだよなとか、頭の片隅に浮かぶのは言い訳のような冷静な自分の思考。

「...ししお、」

「おやつ!早く来ねえとなくなるぞ!」

ひらひらと飛んだ書類が再び文机に舞い戻ってもたっぷり三秒固まったままの獅子王を不思議に思った審神者が声をかければ、彼は勢いよく立ち上がった。その拍子にのけぞり返ってしまった彼女へ律儀に手を伸ばし座らせてから、どすどすと足音を立てて獅子王は彼女の部屋を早足に去っていった。それも、

「......顔真っ赤。」

思わずそう呟いた自分の顔も真っ赤なことを、彼女はまだ知らない。



2016.03.03.

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【鳴あん】君は知らない

 

 

鳴上嵐は男である。
いや見た目も性別も当たり前のように男なのだけれど彼の話し方や仕草、雰囲気は周りの女友達のそれである。事実彼は「お姉ちゃん」と自分のことを呼ばせ、 持ち物は一見女子のものにしか見間違うことのないファンシーな手鏡など、美に対する熱意は誰よりも強くそれだけ考えると寧ろ彼が男だとは考えにくい。
けれど今目の前のステージでスポットライトを浴びてパフォーマンスを見せるのはまさに"男"である。
「……ずるい。」
ぼそりと口から零れたのはきっと胸の奥底に潜む本音だ。
どうしたって、普段の柔らかでいて面倒くさがりな態度から一変した艶やかな表情も、華麗にターンを決めるしなやかでいてガッチリとした男の人の脚も、「お姉ちゃん」が男なのだと意識するには十分すぎるほど。
「ひぃ……。」
ふいとこちら側、ステージの袖の方を向いた彼の普段は垣間見ることすらないようぐらい真剣な瞳がぱちりとこちらを映して、それを認識した瞬間にっと口角が 少しだけ上がった、ような気がした。本当にそうだったのかを確認する前に見えなくなってしまったけれど。心臓に悪いとはこのことだ。
「あー、ナルくん今日は本気モードなのね。今日は出番なしかねえ。」
突然聞こえた声にびくりと肩を揺らせば、自分のすぐ後ろにいた泉先輩に呆れたように視線を投げかけられた。気配消されたら気づける訳ないんですけど。
「ナルくんが本気モードだなんて、どうせ誰かさんの為だろうけどねえ。」
「…誰かさん?」
「しーらない。俺もそこまでお人好しじゃないから。」
肩を竦めた泉先輩がくるりと向きを変えて戻って行くのをぽけっと見ていれば、後ろで歓声があがった。本当に泉先輩の出番はなかったらしい。


「あーんずちゃん!お姉ちゃん頑張っちゃったわよ!」
ステージから降りて仕舞えばいつも通り、にこにこと笑う彼は「お姉ちゃん」なのだ。ああ、ほんとうにずるい。きっと私の中でびゅうびゅうと音を立てて荒れ狂う風と雨には気づかないのだろう。
「お疲れさま、かっこよかったよ。」
「いやん、あんずちゃんたら嬉しいこと言ってくれるわね。でもお姉ちゃんとしては綺麗だった、の方が嬉しかったかも。」
「ううん、かっこよかった。…すごく。」
「あら、ありがと。」
うふふと頬に手を当てる女性のような仕草も彼にはぴったりハマっている。けれどもう「お姉ちゃん」の線はとっくに飛び越えてしまったのだ、気づいたらいつの間にか。口々にメンバーから声をかけられる姿も、笑いかけてくれる姿も、ステージの上で輝く姿も全部全部。
「寂しい、ね。」
小さく呟いた言葉はその広い背中には届かない。
大好きだよ。その言葉はまだ、私の胸の中にいる。


*

貴方はあんずで『寂しい、と呟いて』をお題にして140文字SSを書いてください。
https://shindanmaker.com/587150

 

初あんスタ。鳴上嵐の可能性について。

2016.01.29.

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【翔藍】君はあの子で、

 

 

ショウが呼んでいる。
ただそれだけだった。計算だとか経験だとかそんなことでははかれないものだった。
自分にとって計算が全てで、それでいて自分が経験したものを積み上げていくのが当たり前のことというのに。それでもショウが呼んでいる、そう感じたのだから仕方がない。ひとが言う"予感"というやつなのだろうか。
「美風藍」という形をもってからだいぶ経つというのにいまだに知らないことを知ることがある、ひとはそんなに簡単なものではないらしい。

「...ショウ。」
「おわ、っと。藍?どうした?」
ガチャりと開いた扉の先、見慣れた廊下を走れば目当ての人間はこちらをみて驚いたようにベランダで立ち尽くしていた。思わず実体を伴っているかが心配になり抱きついてしまう。腕の中にはいつもと変わらない小柄でそれでいてがっちりと鍛え上げられたショウの体がある。
「と、藍。くるし...。」
「あ...ごめん。」
「突然どうしたんだよ、連絡もなしに藍が来るなんて珍しい。」
「ショウが、ショウがボクを呼んだから。」
「へ?俺から連絡はなにも入れてないぞ?藍も明日は仕事だろ?」
「...。」
ぎゅうと腕に力を込めればぽんぽんとあやすように背中へ回ってきた腕が一定のリズムを刻む。そこでやっと体の力が抜けたような気がして、自分が知らず知らずのうちに体を強ばらせていたのだと気づいた。
「ここに、ここにショウがいるならば...それでいい。」
「ふは、今日はなんだか甘えたがりなんだな。お兄さんはいつでも大歓迎だけどな!」
「...なにそれ、レイジみたいでうざい。」
「うわそれ地味に傷つくぞ。」
腕を解けばちゃんと目の前にはショウがいる。空のように美しく自分を映すその瞳も光に透けてきらきらと光る髪も、ちゃんと存在している。
「この時間だし泊まってくだろ。」
ふわりと優しい微笑みも夢じゃない。

"幸せになってくれだなんて、言いたくなかった。俺のわがままだったけど、最後まで一緒にいたかったんだぜ。"
あの泣きそうな顔で笑っていショウは、どこかで笑えているのだろうか。そうであったら良いのにと、カップの縁で溶けていくココアに問いかけてみても答えは返ってこない。

*

翔藍へのお題は『幸せになって、なんて嘘だよ』です。
https://shindanmaker.com/392860

 

「あいによせて」の翔くんだったりするかもしれない。

2016.01.27.

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最遊記】露となり、露に消え

 

 

「...三蔵?どうかしましたか?」
「んあ、いや。」
「これは、ツユクサですか。」
たまたま、本当にたまたま見つけただけの道端の花。別に珍しくもなんともない青く小さな花。いつもであればそんなわざわざ道端のものに目を留めるだなんてことはことは妖怪が隠れてでもいない限りないのだけれどどうしてか目に留まったのだ。
ツユクサって綺麗ですけど触ると自分の指も汚れるので悪戯なんかでよく遊んでました。懐かしいですね。」
「あー、そういやそうだったな。」
手を伸ばしてもその花にふれてしまえばその柔らかそうな形は原型を留めることなくあっさりと崩れ、指先に青い染みを残すのだ。毎日の掃除の時だったか、師 であった光明三蔵のサボりながらも軽く指先で弄んでいたのはたしかこの真っ青な花ではなかっただろうか。幼き日がふと思い浮かぶ。
『ほら江流。こんなに小さく儚きものでも生きた証を残すのですねえ。』
へらりと頭の中で笑う師の表情からは、大きくなった今でもその考えを読みとることはできない。ふわりと風に漂い青い空へ消えていく白い煙ばかり鮮明に覚えている。あとは自分の前で倒れたあの白い背中だけ、だろうか。
今の自分があの頃の師に出会えるのならば、なにか変わることはあったのだろうか。なにか自分にできることはあったのだろうか。
「そんなこと、考えても仕方ねえけどな。」
「三蔵?」
「いや、さっさといくぞ。バカ猿はまだ帰ってきてねえのか。」
過去に戻れたら、だなんてらしくもない。今は今だ、過去で変えられるものも変えるものもなにもない。

「露草、ね。」
「観世音菩薩がわざわざ地上の花を愛でるとは、珍しいことですな。」
「まあ、な。それがすべて思い出となるのならば、それで良い。」
青き花は今日も咲く。

*

江流さんに捧げる花はツユクサです。漢字は露草。惚れ惚れするような美しい青色が人気。花言葉は「懐かしい思い出」「ノスタルジー」など。昔を想起する花です。思い出が沢山あり貴方にぴったりですね!※諸説あり
https://shindanmaker.com/591741

 

最遊記。三蔵さんと金蝉さんが好きです。

2016.01.27.

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【トキ春】いつか見た夢を

 

 

夢を見た、懐かしくて少しだけ胸の奥が痛むような夢を。
「……トキヤくん。」
思わず呼んでしまったのはもう呼ばない、呼べない名前。かつてはずっと一緒にいた彼の名前。
こちらを向いて笑っている写真は、アイドルとしてきらきらとステージの上で輝いていた写真は毎日見る。けれど夢に見たのは今はもうぼんやりとしか思い出せないような隣を歩く姿だった、ような気がする。
「どうして、今更。」
夢で良いからと何度思ったことか。アイドルとしてステージの上できらきらと輝いている絶頂期だったはずの彼が突然いなくなってからもうだいぶ経ち、彼がい ない日を数えることをやめたのはいつだっただろう。けれど、どれだけ経ったとしても思い出せば胸が痛むのはあの頃となにも変わらない。
ぼうっと布団の上で自分にはわからない彼なりの原因だとかを考えてみるけど、今もなにもわからないのだ。彼が自分と同じように人を頼ることが得意でないの はわかってたつもりだったけど、こうも目の前に事実として突き付けられるとなかなか辛いものがあるのだなあと客観的に思えるようになったのは最近のこと。
ピピピと目覚ましが再び鳴り、時計はそろそろ起きなければ遅刻する時刻を示している。
「今日は、」
午前中は事務所で打ち合わせ、そのあと夕方まではたしか時間があったはず。まだまだ気持ちがすっきりと晴れることはないだろうけれど、久しぶりに彼との思 い出をめぐってみても良いかもしれない。元気ですか、と隣にはいない彼に、返ってくることのない問いかけをこっそりと笑ってするぐらいはできそうだ。窓か ら差し込むのは柔らかい朝の日差しで、ここ最近ずっと崩れることのないまま今日も今日とて晴天だ。
「…いってきます。」
小さく声に出して、にっと口角をあげれば今日が始まる。
彼に会えるように、心の奥底に潜む願いのような、何かの前触れのような夢を見た。



*

七海春歌は夢を見る。そこは二度と戻れないあの場所。傍には会いたくないあの人がいて、楽しそうに笑っている。七海春歌は起きたらきっとどうして、と呟くのだろう。そんな、ゆめをみるひと。
#ゆめをみるひと
https://shindanmaker.com/562707

 

いつか笑って会えますように。

2016.01.26.

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【遙江】余韻が消えぬまま

 

 

ぱしゃっと勢いよく水飛沫があがる。まだ夏の余韻を残した陽射しが差す中、素晴らしく鍛え上げられた腕が脚が水を掻く。タイムを取り、事務的に読み上げな がらもその息をのむほど綺麗なフォームはほとんど毎日見ているというのに何度見ても飽きない。たまにふと遙先輩は人間なのだろうか、と疑問を持ってしまう ほど。
「…江ちゃ〜ん。」
「は、はい!」
「タオル、取ってくれたら嬉しいなあ、とか。」
「わ、すみません!」
ふとぽけっと遙先輩の泳ぎを見ていたらしい。びしょ濡れのままタオルを求める真琴先輩の言葉に気づかず、思わず苦笑いを零された。
「ほんとに、江ちゃんはハルのことよく見てるよね。……たしかにハルのフォームは綺麗だし見惚れる気持ちはわかるけどね。」
真琴先輩の最後の方の言葉は頭を右から左へ流れていった、と同時に自分の顔に熱が集まるのがわかる。無意識に見惚れていただなんて、しかもそれを真琴先輩 に指摘されるだなんて恥ずかしすぎる。急激にあがった体温はこの陽射しのせいではない、いっそ陽射しのせいにしてしまえたらどんなに良いか。
「まさか、そんな。」
ばしゃりとプールからあがった遙先輩の深海のような瞳とぱちりと視線が交じる。
「…江、タオル。」
「はひぃ!」
思わず呼ばれた名前に声が上ずってしまった。クスクスと背後で真琴先輩が笑う気配がする。思わずキッと視線を投げかければ肩を竦めるようにしたけれど、ま だその口角が遙先輩の見えない角度でニヤニヤとしているのがわかる。全部お見通しだったというのか。自分ですらたったいま気づいたばかりのこの淡い塊を見 透かされていたのは気恥ずかしいうえになんだか癪なので、まだ、まだ言わないでおこう。
「どうした、江。風邪か?」
ぐいっと覗き込まれた瞳に映る自分の顔がさらに朱に染まっていくのがわかり、既に白旗を上げそうだ。
夏の余韻はまだ消えない。


*

松岡江が恋だと気付いたのは目で追いかけたのを自覚したとき です。
https://shindanmaker.com/558753

 

Free!たまにリクエストで書くけど実は本編見たこと無かったり。

2016.01.26.

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【つきやち】指先に触れるは、

 

 

「や、」
ひっくと小さくしゃくりあげるような声が聞こえて、谷地さん、と言いかけた言葉は口から出てこなかった。
部活が終わったあと、いつもならぱたぱたとあちこちに走りながら選手を労わり片付けている小さな体が見当たらないことに気づき、皆に一声かけてから月島が小さなマネージャーを探しに体育館を出たのはわずか数分前。
と言ってもどこにいるかなんてわからないまま、とりあえず体育館周りから探すか、と浮かんだ考えは当たっていたらしい。でもまさか泣いているとは予想外だったのだけれど。
膝を抱える頭は陽の光を浴びてきらきらと光り、ぴょこりと星がついているのは間違えようがない。はあ、と無意識に自分の口から漏れたため息には見ないフリをしてその横の段差に腰掛けた。
「ひぇ……つ、つきしまくん。」
驚いたように顔を上げたその金色に光る瞳は想像通り、今にも溢れそうな透明の水の膜で覆われている。
「……どうしたの。」
「いや、べ、つに。」
「あのねえ、」
はあと再びこぼれたため息にびくりと目の前の肩が揺れる。別に怖がらせようだなんて思っていないのだけれども。
「突然いなくなったらびっくりするから。」
「ご、ごめんなさい…。」
気づいた時にはぽろりと目の前の大きな瞳から零れ落ちた、きらきらとひかるものを指で拾い上げていた。金色の瞳から零れ落ちたそれはまるで星のカケラのようだ、なんて柄にもないことが頭に浮かぶ。
「…つきしま、くん。」
びっくりした、と言わんばかりにぱちぱちと目を瞬かせる谷地さんに自分が何をしたのかを理解する。思わず普段の谷地さんではないが逃げ出したくなるような恥ずかしさに襲われた。穴があったら入りたいだなんて、よく言う。
「谷地さんがどこでなにをしてようが個人の勝手だけど。一応マネージャーなんだから、ちゃんと最後まで仕事して。」
「あ、ご、ごめんなさい!みなさんになんて謝れば良いか…!土下座して埋まりますうううこの世にいてすいませんんん!!」
口から出てきた言葉が本心じゃないことは自分が1番分かっている、けれど目の前で言葉を本心だと捉えた谷地さんはさっと顔色を青くさせほんとうに地面にのめり込んでしまうのではないかと言わんばかりに頭を下げている。
「…はぁ、嘘だよ。ほら、行くよ。」
ぐいっと持ち上げ立たせようと掴んだ腕は想像の何倍も細くい。それは少しでも力を入れればあっさりと折れてしまいそうなぐらいに。ああそうだ、谷地さんは女の子だった。
言葉にすればどういうことだと谷地さんに怒られてしまいそうなことだけれど、今更ながらに実感した。
「…なんで。」
「月島くん?」
何か言ったかとこちらを見上げる瞳から逃れるように首を横に振り、前を向く。きらきらと光る星のカケラを拭った指が今更熱い。
自分の気持ちに気づいてしまった時には、もう遅い。

*

月島蛍が恋だと気付いたのは反射的に涙を拭いてしまったとき です。
https://shindanmaker.com/558753

 

初めて書きました、つきやち。

2016.01.26.

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