ほしぞら1/2

ぽつぽつ書いている二次創作小説たち。ジャンルごった煮。Twitter@bbb_kzs

【翔レン】シアワセは知っている

お酒を飲むSクラの話。

注意⚠トキ春前提、お酒は二十歳になってから。

初めて翔レン書いたけど、ひーちゃんお誕生日おめでとう!

2015.09.17.

 

 

「すみません、遅れてしまって。」

「あ〜〜イッチーいらっしゃい〜。」

「おう、お疲れ!…わりぃな。トキヤ来るまで待とうぜ、っていったんだけど聞かなくてさ。」

仕事が押してトキヤがいつものバーの扉を開いたのは、予定の時刻より30分ほど経った時間だった。学生の頃から変わらないいつものメンバーだが、だからこそ三人で飲むことを、いつも口には出さないものの、三人とも楽しみにしているのはわかっている。だからこそ申し訳ない、とトキヤは小雨で少しだけ濡れた肩を入り口で払っていつも通りの席へ向かった。

「もうおチビったら、途中から止めてくれなかったじゃないか〜〜イッチーほら、何飲む?」

「はあ、全く相変わらず自由ですね。私はジントニックを。」

誰が見つけたか個室のようになっている静かなバーは居心地がよく、三人の行きつけのようになっていた。そんな席にはすでに出来上がりかけているレンとそれを宥める翔の姿、いつも通りだ。ほろ酔いで今にも歌いだすのではないかというほどの笑みを絶やさないレンの姿に、トキヤは翔と苦笑いを零した。

「ほら、レン。トキヤのもきたところで仕切り直し。」

「はいはーい。」

「遅れてすみません。」

「もういいって、ほらお疲れ様、

「「「乾杯!」」」

チンと軽く音を立ててグラスがぶつかり、カラフルな色がそれぞれの喉に消えていく。

「…翔は、アルコールじゃないんですね。」

「お、おう。まぁそこまで俺も強いわけじゃないしなあ。」

「なんだ、もうおチビはギブアップかい?まだまだ子供だねえ。」

レンが翔へ酔った勢いで絡んでくるのに対してはは、と軽く苦笑いのように翔は笑った。別に翔が特別弱いわけではなく、むしろレンとどちらが弱いかと言われれば僅差でレンの方が弱いだろう。それでも、いつも三人で飲む時は余程のことがない限り翔は一杯、二杯でアルコールを飲むことを止める。その理由をトキヤは知っている。

言ったところで目の前に座るふたりの何かが変わるわけではないことも知っているのでなにも言わないままだけれど。思わずトキヤも翔に釣られたように苦笑いを零しながらグラスの中を空にした。

 

気づけばトキヤの目の前のオレンジ色の髪はくったりと力を失ったように机に突っ伏していた。久しぶりに飲んだからだろうか、いつの間にかレンは落ちていたらしい。これで三人の中では一番年上だというのだから、と呆れたようにトキヤはひとつため息をついた。それを見て翔もレンの方を見遣った。

「今日はつぶれんの早かったな。ったく、送る身にもなれよレン。……で、最近どうなんだよ、トキヤ。」

「…どう、とは?」

「いや、その、最近七海にも会わねえからさ。」

「ああ、春歌ですか。変わらず元気にしてますよ。まぁ最近は安定して仕事も入ってくるようになったらしいのですが、そのおかげで不規則な生活習慣なのが心配なところですけどね。まあそろそろ一緒に住もうかとは思ってます。」

そういえば自分の中では考えてはいたもののまだ春歌に言っていなかったか、とトキヤが思い出しながら話していると、ブッ、と向かいでオレンジジュースを口にした翔が盛大に吹き出した。

「なんです、翔。汚いですよ。」

「…あー、いや、その。まさかトキヤから惚気を聞くとは思わなかった、というか。まぁ。」

「思わなかったもなにも、聞いたのは翔からでしょう?」

トキヤが微かに眉をひそめればまぁそうなんだけどさ、と左手で翔は机の上を拭きながら困ったように笑った。

「そういう翔も、あなたたちも。変わらないようでなによりです。」

ゲホッゲホ、と一呼吸おいてから再び口をつけたオレンジ色の液体を今度は吹き出さないものの喉に詰まったらしい翔が苦しそうに咳をした。

「……おまえ、気づいて…。」

「気づかないとでも思ってましたか?分かりやすすぎますよ、あなたたち。」

気づかれていないと思っていたならどれだけ私を鈍感だと思っていたのか、と少しだけ翔とレンに文句を言いたくなる。全て最初からトキヤは知っていた。

「…その、黙ってて悪かった。」

「別に仲間外れだとかそういうことは思ってませんけどね。……でも、まぁ、幸せなら良いです。大事な友人ですから。」

「ありがと、な。」

照れくさそうに、それでもにっといつもと変わらず笑った翔にトキヤは安堵した。

ふたりの関係に別に悪態をつきたかったわけでも、嫌だとトキヤが思っていたわけではない、わかりやすいふたりのこともわかっていた。ただ、学生時代からずっと一緒にいると思っていた仲間が大切なことを言ってくれないことが、それだけが、少しだけ寂しかった。それを除けば、ふたりが幸せに笑っていてくれればトキヤは十分なのだから。

 

いまだってテーブルの下で翔が優しく握り返している手が誰のものかだって。

きっとさっきまで降っていた小雨が止んでいるだろうことも。

トキヤは知っている。