ほしぞら1/2

ぽつぽつ書いている二次創作小説たち。ジャンルごった煮。Twitter@bbb_kzs

【伊達主】君在る季節

梅雨もいいよね、って話。

誕生日のみねさんに捧げます。

おめでとう!今年もいっぱい遊んでね(笑)

2016.02.12.

 

「いらっしゃいませ……って、あら京也さんいらっしゃい。」

「お疲れちゃん。…降ってきたな。」

カランカランと来客を知らせるベルが響く店内は、ランチ時が終わったばかりだからか人もまばら。食後のコーヒーを楽しんでいる人たちが数人いるだけだ。平日というだけでなく、ぐずついた天気に外出したがらない人が多いからだろうか。京也が事務所を出た時はどんよりとしていただけの曇り空も、店に着く前にぱらぱらと雫を落とし始めた。

「タイミングよかったかな

「あはは、そうね、ちょうど落ち着いたところ。…お好きな席にどうぞ

「ああ。」


いつも通りの席に着けば、静かな店内とは対照的な窓の外の雨音が聞こえる。いつの間にか小雨だった雨も、しっかりと降り始めたらしい。

ニュースで梅雨入りを宣言してから一週間ほど。そろそろかと心構えをしていたつもりだったが、やはり雨つづきは気持ちがあがらない。仕事は落ち着いているが、その分鬱憤を晴らすようにレッスンで野獣ふたりが競い合うのを宥めるのもリーダーである京也の仕事だ。無意識にため息をついてしまうのも仕方のないことだろう。

「晴れてくれれば良いものを。」

「梅雨入りしちゃったもんね。…はい、特製ハンバーガーです。」

「聞かれてたか。」

手渡された彼女のものであろうピンク色のタオルを受け取りながら思わず苦笑を零せば、ごめんね、と彼女が軽く肩を竦めた。

「晴れてくれればあいつらも仕事が増えるからなあ。」

「…ケントさんとトオルさん

「ああ……。」

元々の仕事が少ないだけでなく、雨で中止になる仕事もある。その度に目に見えて気落ちしているケントとトオルを見ると、仕方のないことだと割り切っている自分も気分が晴れないのだ。はあ、ともう何度目かわからないため息が漏れる。

「雨続きだとね。…でも、私梅雨も好きよ

「……へえ、あんまり梅雨好きな人って聞いたことないかもな。」

常にどんよりと曇っているか雨が降るような毎日。気分が晴れないだけのマイナスイメージしか、梅雨への印象はない。

「まぁ雨ばかりだと暗いような印象はあるけど。でも紫陽花が綺麗だったよ。お店の隣にも咲いてるけど、この間常連さんが持ってきてくれたの。」

にっこりと笑った彼女が差す先には、鮮やかに咲く水色の花。ふと周りを見渡せば、入口だけではなく大きなテーブルやカウンター、水色だけではなく白や薄紫といった色とりどりの紫陽花が飾られている。

「あー、たしかに最近咲いてるのはよく見かけるかもしれないな。」

梅雨という季節を色濃く感じさせる花たちは、彼女にとってみると愛でるべき存在らしい。そういえば事務所の近くでも咲いていただろうか。特に気にもとめていなかった道に咲く花たちを思い出した。

「紫陽花はお店が華やかになるから、お客さんにも好評でね。…あ、あとは雨の日だとお客さんは少ないんだけど。その分京也さんとゆっくりお話しできるでしょ。」

ころころと無邪気に笑ったかと思えば、急に悪戯っ子のようにニッと口角を上げた姿に京也は一瞬ぱちりとまばたきを落とした。たしかに普段であれば開店してる間に彼女と京也が言葉を交わせるのはほんのわずかな時間だけ。ゆっくりと会話することすらままならないぐらいには繁盛している。

「……ふはっ。敵わないな。」

「そう思えば、梅雨も楽しいかもよ。あ、もちろんお店が忙しいのはありがたいことなんだけどね。」

慌てて付け加えるように言葉を紡ぐ彼女にそう言われてしまえば、そう感じてしまうのだからゲンキンなものだ。そんな自分に苦笑がこぼれた。

「……そうだな。いつも美味しい料理とラブをありがとな。」

トレーを持つ白い指先にそっと体温を落とせば、彼女の白い肌が瞬時に耳まで真っ赤に染め上げられる。京也さん、と抗議の声をあげそうになる彼女にしっと人差し指を立てれば真っ赤な顔でこちらを睨んできた。そんな真っ赤な顔で言われてもな。小さく独り言ちたことばが口から出ることはなく、真っ赤に染まった頬の向こうで、マスターが苦笑気味に肩を竦めていた。