【嶺藍】飛ぶ、跳ぶ、とぶ
煙草を吸う寿嶺二はズルイと思います。
普段はほとんど吸わないけど考え事する時とかだけとか美味しい。
2013.10.17.
「こんなところにいたの、レイジ。」
「ねえ、アイアイ。羽みたいに、どこまでも、飛んで行けたらいいのにねえ。
…その先にはなにがあるのかなあ。」
独り言のように、哀しい歌を歌うように、宙を見つめて彼は呟いていた。
ボクに話しかけているはずなのに、ボクはまるでいないかのように。
彼の手にある煙の先からは灰が零れ落ち、空を舞いながら遥か地上へ落ちていく。
レイジのようだ。
唐突にそう思った。
そこにいるのにふわふわとボクの腕からすり抜け、落ちていく。
目の前でベランダに寄りかかるレイジが、いま消えてもボクは驚かないだろう。
そんな確信さえもった。
「ねえ、アイアイ。」
今度はボクの方を振り返った。
レイジは微笑んでいた。
まるで全てを理解したかのように
まるで全てを諦めたかのように
「いまならボクも飛べる気がするんだ。」
そう言ってレイジは笑みを深めた。
ひゅっ
レイジが風をきる音だったのか
ボクの喉の音だったのか
ただ秋の風の音だったのか
言葉の通りレイジは飛んだ。
ベランダから下を覗き込むと人だかりと赤い水たまり。
レイジは飛んだ、跳んだ、とんだ。
彼が願った通りに。
飛ぶ、跳ぶ、とぶ
(ねえ、飛んだ先には何が見えたのか教えてよ、レイジ。)