ほしぞら1/2

ぽつぽつ書いている二次創作小説たち。ジャンルごった煮。Twitter@bbb_kzs

【藍嶺】君色に、恋

リーマンパロ。

嶺二が可愛くなりすぎた気しかしてない。

 

2013.11.06.

 
 

 

いつも見かける鮮やかな青。
空と緑が混じり合って溶けたような色。

毎朝同じ電車の同じ車両、同じ時間きっかりに乗ってくる。
ピンと伸びた背筋とモデルのように整ったスタイル。
窓の外を眺める横顔は思わず見とれてしまうぐらいに端正で、そのポーカーフェイスが崩れるところを見てみたいだなんて不覚にも思ってしまう。
たまに頬を緩めて外を眺めている表情を、
さり気なくおばあちゃんに席を譲る優しさを、
さらりと髪をかきあげる優雅な仕草を、
いつの間にか目で追うようになっていた。

なにより一度痴漢を捕まえようとした際に助けてもらったことがある。
女子高生が痴漢にあっているのを見過ごせず、駅に下ろそうとすると痴漢に思いっきり殴られた。
「大丈夫ですか。」
そう声をかけてくれたのが彼だった。
思わず突然のことで何も言えなかったのだけど。
彼の瞳が髪色と同じ綺麗な色だと知ったのはその時だ。
彼と話したのは(話した、と数に入れていいのかもわからないけれど)それっきり。
ふと気づけば、いつの間にか僕の頭の片隅には彼が存在するようになっていた。



街を闇が覆ってからどれくらいの時間が経ったのだろう。
いつもなら喧噪に包まれているビル街も、今ではすっかり静まりかえっている。
久しぶりの残業にため息をつきながらそんなビル街を抜け、帰路につく。
月末は仕方が無いことだと思いつつも、さすがに日をまたぐのは辛い。
それでも人の熱気でむせかえるような満員電車ではなく、ゆっくり座って帰れることだけが残業の良いところだろうか。
そんなことを思いながら終電間際の電車に乗りこむ。
座席に腰を落ち着けるといつの間にか意識は深く落ちていた。

ふと目を覚ますと、闇が映った向かい側の窓がふと視界に入った。
その闇を進む電車の窓に映っていたのは僕と二つ隣の席の、
彼。

毎朝きっちり同じ時間同じ場所で見かけるはずの鮮やかな瓶覗色(彼の鮮やかな髪色と瞳が"かめのぞき色"という色なんだと調べたのは記憶に新しい)。
いつもならすっと伸びた背筋も今は座席に預けられ眠り込んでいる。
無防備で美しい、
いつも見るより幼い印象を受けるのは意志の強そうな瞳が隠れているからだろうか。
それでも、眠っていても変わらない美しさに。
いつの間にか僕は唇の端に口づけを落としていた。
「…っ!」
柔らかい感触を唇に感じた瞬間、
自分が何をしたのか理解し、顔に熱が集まるのがわかった。

「…なんで、”ココ”にしないの?」
「っ!?」

ぱちりと開かれた瞳に唇を指し示す指、美しい声に紡ぎだされる言葉。
突然のことに頭が真っ白になる。
見ず知らずの人に寝てる間にキスされるだなんて気持ち悪いに決まってる。
彼のことは目で追うだけでよかったのに、僕は何をしているのだろう。
「っす、すいません…」
「ねぇ。ボクの問いに答えて。…なんで"ココ"にしないの?」
彼の指は薄っすらと開かれた自らの唇に触れる。
その艶やかな仕草に胸がドキリと跳ねる。
「え、あ。」
「…タイムアップ。その答えはまた明日、ね。…"寿嶺二"さん。」
そうにっこりと美しい笑みを浮かべ立ち上がった彼の手には、いつの間に取ったのか僕の社員証。
ふと気づくとホームに降り立つ彼と、
目の前で閉まる扉。
窓越しに彼がにっこり微笑むのと同時に電車が揺れ、動き出した。

訳がわからぬまま身体の力が抜け、床に座り込んでしまう。
「怒って、ない?」


彼に名前を知られたことも、
彼と言葉を交わしたことも、
思わずキスをしてしまったことも、
彼の初めて見た笑みも。
目の前に鮮やかな瓶覗色が広がる。
その全てに体中の熱が顔に集まり、胸の奥をぎゅっと強く掴まれたような感覚に陥る。

「もしかして、僕は…」

熱い頬と胸の高鳴り、
闇の中に秘密を孕んだ帰り道。


君色に、恋
(いつの間にか君に落ちていた。)