ほしぞら1/2

ぽつぽつ書いている二次創作小説たち。ジャンルごった煮。Twitter@bbb_kzs

【音友】今だけは

トキヤ誕に書いた鈴蘭の話と同じ世界線。

⚠音友と言いながらハッピーエンドではないです。たぶん。

2015.08.13.

 

 

 

「ありがとう、音やんのおかげだよ!」
ぶんぶんと音がするぐらいに手を握って振り、にっこりと眩しいぐらいに笑う友千香に、よかったね、と言った自分はちゃんと笑えていたのだろうか、いつものように。それしか言いようがなかったのだ。
ぼんやりと音也はほんの数時間前のことを思い出した。少しだけ頬を上気させて、好きな相手にちょっとだけ勇気を出せたのは音也のおかげだといつもよりも興 奮したように話す友千香を可愛いと思ってしまうのは惚れた弱みなのだろう。今となっては心にぽっかりと穴が開いたように、少しだけ虚しい。
「…あーあ。俺の方が付き合い長いんだけどなー。」
ばたりと芝生の上に身体を横たえれば木の隙間から燦々と降り注ぐ太陽の光が音也の瞳を刺すように注いでくる。
瞳がうっすらと水の膜で覆われているのは、きっとその光のせいだ。


わかってはいたのだ。
学生時代から一番近くで過ごしてきたトキヤはポーカーフェイスと言われてはいるものの、音也にとってみればなんだかんだわかりやすい。
そんな気なんてさらさらないといった顔をしているようで、事務所で音也と友千香が話していれば背後から視線を感じることは少なくなかった。そんなに話した ければ話せば良いのにとも思うが、別に話題がないだとかどうせ余計なことをぐるぐると考えているのだろう、トキヤのことだから。
それでも決してふたりの輪に入れる手助けをしようだなんて思ってなんかやらないけれど。
音也にとってみればなんだかんだトキヤも友千香も大事な友人であることは変わりないのだけれど、いつから少しだけ胸が痛むようになったのだろうか。最初は 友千香からドラマの共演でトキヤにはとてもお世話になったし、たまたま誕生日が近いからプレゼントは何がいいだろうかと相談を受けたことが音也の中で認識 しているはじまりのひとつだった。その時はただ純粋にトキヤがハマっていたトレーニングに邪魔にならない程度の小物を贈ればいいんじゃないかと真面目に考 えてアドバイスをしたのを覚えている。
ありがとう、音やん!と、気になっている相手から満面の笑顔で感謝されることはくすぐったくって、思わず音也はトキヤのことなら一番知ってるからいつでも 聞いてねと宣言したのだ。それが今となっては自分の首を絞めているだなんてあの時は微塵も想像できなかった。友千香のトキヤを見る視線がいつの間にか親愛 だけではなくなっていることに気づいた時だって、焦りはしさえすれど所詮自分の方が付き合いも信頼も違うと高を括っていた自分を少しだけ恨めしく思う。
それだけ自分も友千香を見ていたのだ、気づいてくれているかもとか淡い想いだって抱いていなかったと言えば嘘になる。
わかってはいたのだ、わかってはいた。自分で自分に言い聞かせるけれど、ぎゅうぎゅうと心臓が痛いことには変わらない。
「好き、だったんだよなー。」
ぽろりと零れた言葉はずっとずっと胸の奥に隠していた本音。言葉にすれば余計に実感が湧いてくるようで息が少しだけ苦しい。眩しさから瞼にあてていた腕の下からぽろりとあふれた一粒に、堰が切れたようにぼろぼろと止めどなく溢れていく。

「…あー、あ。」
幸せに、だなんて今は思えない。いっそのこと別れて俺のことを見てくれればいいのに、だって思ってしまう。
でもきっとあのふたりなら大丈夫なんだろう、そう思ってしまうから。ふたりとも大切な人であることには変わりないのだから。きっと、ちょっとだけ悔しいのだ。
見上げれば霞んだ視界が光を受けてキラキラと輝いている。
「不幸せになったら、ゆるさない、ぜったい。」
だから、今だけは少しだけこのままで。