ほしぞら1/2

ぽつぽつ書いている二次創作小説たち。ジャンルごった煮。Twitter@bbb_kzs

【嶺蘭】きみのとなりで

久しぶりの嶺蘭で若干、これは嶺蘭なのか・・・?と思いながらも嶺蘭と言い張ります。

煮干しさんに捧げます。

 

2014.01.01.

 
 

 

今年も早咲きの梅が咲いた。
白い白い、梅の花が。
何年経ったのか、今はもうわからないけれど。
それでもあの梅の花がもたらす胸の痛みには、慣れない。



「うー、寒い…ぶるぶるだよ、もう。」
年が明けたとはいえ、まだまだ冷え込みはひどくなるばかりで。
寒空に文句を言っても身体を冷やしていく風は止まらない。
冬の雲に覆われたグレーの世界が苦手だ。
社長命令とはいえ、なんでこんな日に限って事務所まで歩かないといけないのか。
”寒さに慣れて身体を鍛えるのもアイドルとして大切なことでぇーーす!”
…シャイニーさんのことだから、理には適っているんだけど。


「全く、シャイニーさんも。寿嶺二だってバレたらどうしてくれるのさー。」
いくらマフラーや眼鏡で変装しているとはいっても、いつアイドル寿嶺二だとバレるかなんてわかったものじゃない。
「ぼくちんこれでもアイドルなんだけどなあ、」
なんてふっと不平をこぼしても誰も答える人はいない。
口からこぼれた言葉たちは寒空に吸い込まれて消えていく。

「あっ…。」
事務所へと抜ける道の途中に咲いていた梅の花。
それは、まだ冷え込みがひどい中、唯一花をつける。
それは、愛音が愛した、早咲きの梅。
名前はもう忘れたけれど、
”雪が咲いてるみたいだよ”
そう言った愛音の声は今でもはっきりと覚えている。


「…これ、"冬至梅"だろ。」
「っ…おわ、ってランランか。びっくりさせないでよ、も~!」
いつの間にか隣には同じように変装した同じ事務所の黒崎蘭丸が立っていた。
突然隣から聞こえた声に自分が一瞬過去に戻っていたことを痛感する。
”これ、とうじうめ、っていうんだよ。”
蘭丸の声が、過去の愛音の声と重なる。
それでも蘭丸の声がひどく心地よく胸の中にすとんと落ちた。

ああ、ぼくは。こんなにも。

「…蘭丸、ありがとうね。本当に。」
思わず本音がこぼれた。
こんなにも、ぼくは蘭丸に助けられてきたんだ。
過去からの呪縛に囚われてきたぼくは。
「っ…なんだよ、急に。」
「あー、ランラン顔真っ赤!」
「うるせえ!」
「へへ、暴力はんたーい!…蘭丸、好きだよ。」
「...っ。」
「いつもありがとうね。」
「んだよ、急に…。」
ふいっと顔を背けて表情を隠しても、その銀色の髪の隙間から見える耳と頬が赤い。
ぶっきらぼうな口調も照れ隠しだと彼を好きになってから知った。
人一倍不器用で誰よりも優しい、ぼくのこいびと。
そんな蘭丸が愛おしくて、ぼくより少し背の高い蘭丸の薄い唇に。
ふっ、と思わず口づけた。

「!?なっ!」
「へっへっへ。ランランいただきー!」
「馬鹿!ここ外だろ!」
「めんごめんご。ランラン可愛くてつい、ね!」
「っ…れーいーじー!お前まじでゆるさねえ。」
「はぇ!?ちょ、ランランたんま!」
つかみかかるようにしてくるランランの腕からすり抜けて、
事務所までの道のりを全力で走る。
視界の端で白い花がふるりと揺れた。
いつの間にか目の前の空は雲がきれ。
隙間から光が差し込んで。
雲の間からわずかに見えた空は突き抜けるように青い。

まるでそれは、愛音の色のようで。
「…ありがとう、愛音。」
無意識にこぼれた言葉は自分も想像していなかったことで。
思わず足が止まる。
「…ぼく、いま…ありがとう、って。」
ありがとう?ごめんねじゃなくて?

「っ…おい、嶺二。突然、走りだすっ、なよ。」
「蘭丸…。」
「あ?…どうした。」
「ぼく、ありがとう、って。…あいね、に。」
「嶺二…って、おわっ。だからここ外だっつーの…。」
状況を把握できないまま抱きつかれて呆れて怒っていても。
それでもそのままでいてくれる蘭丸に感謝して、そのままその大きな体を抱きしめる。

ああ、きっと。
ぼくはやっとぼくをゆるせた。
それはきっと、君のおかげ。


「ねえ、蘭丸。」
ーー 全てを受けとめてくれてありがとう。

きっと、あの白い花を見る度に起こる胸の痛みには、この先も慣れないだろう。
それでも、すきまから見えたあの青い空もふるりと揺れた白い花も。
かつて愛した、愛音のことも。
ぼくはきっと忘れない。
忘れてなんかやらない。


それも全て抱きしめて、歩いて行くから。
ずっと、ずっと。

 

きみのとなりで