ほしぞら1/2

ぽつぽつ書いている二次創作小説たち。ジャンルごった煮。Twitter@bbb_kzs

【蘭嶺】雪夜の願い

ずっと書きたかった雪の日の蘭丸と嶺二。

うららちゃんに捧げます、お誕生日おめでとう。

 

2014.02.09.

 
 

 

やけに冷えこむ夜で、どうにもこうにも寒く普段はつけない石油ストーブのスイッチを入れた。
窓の外を見ると白い欠片が落ちてきている。
もうだいぶ降ったのか、すでに地面は真っ白に積もり始めていた。
そういえば昼間、QUARTET★NIGHTで歌番組の収録があった時にミューちゃんがこの国にしては寒くて良いことだって楽屋で上機嫌だったっけ。
そんな永久凍土の国で生まれ育った貴族の彼と、今日もなにかとつっかかって口げんかしていた同じように北国育ちの銀髪を思い出して少しだけ胸の奥が、苦い。
信じてないわけではないのだけれど、それでもふとした時に胸の奥が真っ黒いものに覆われるような感覚に陥ることは少なくなかった。

いつの間にか雪は止み、窓の外には月の光に反射した銀色の世界が広がっていた。
ふらふらとその銀色に吸い寄せられるように、外に出る。
冷えきった空気は肌を刺すようで、それがどこか心地良い。
ボスッ
まっさらに積もった白に惹かれるように倒れ込む。
上を見ると、闇の中には星が無造作にちりばめられたように輝いている。

そういえばセッシーが金平糖は星のようだと言っていたっけ。
異国の王子だという褐色色の肌をもつ後輩をふと思いだし、それと共に彼の直属の指導にあたっていた異国の貴族である同僚を思い出す。
彼らが口では散々お互いを詰り合いながらもお互いを想い合っていることは、自分はなんとなしに気付いてはいた。
それでも、わかっていてもダメなのだ。
この雪のように白く透き通り光があたればきらきらと輝くブロンドの髪をもつ同僚と、どこまでも自分の信念をかたくもって生きる銀髪の彼がなにかと口げんかを、―仲が良さそうにしているのを見ると。
胸の奥に黒い塊ができていくのを、僕はいつも見て見ぬフリをする。

冷えた空気はシンと音が聞こえるんではないかというぐらいに澄みきり、僕の肌を通って胸の奥を刺す。
ツキンと痛むのは寒さのせいか、僕の心の暗さなのか。
部屋着にコートも着ていない、薄着のまま出てきたのはうっかりなのか、それとも無意識のうちに意図してきたことなのか。
もうなにもわからないまま、考えることを放棄すると寒さが背中からじわじわと襲ってくる。
すでに手足は感覚がなくなってきている。

----このままでいたら、死ぬ、のかな。

静かにまぶたを閉じてみる。
真っ暗闇の中、僕は、ただ独り。
愛音もどこかでこんな闇の中でひとりなのだろうか。
ふとかつての親友を、助けられなかった彼を、思いだした。
それならば、僕も闇に独りで…。

 

*


雪が降ったらしい。
タクシーの窓から見える地面は白に埋められて、道行く人々も足早に歩いている。
一面の白は昔を思い出す。
東京では降ることがほとんどないからこそ、甘く懐かしい思い出は、今は苦いだけだ。

ふと、この寒い夜にあいつは何をしているのだろうかと思い携帯を取り出したが、結局電話をしまい自宅に向かっていたタクシーの進路を変えた。
自分の古いアパートとは違う、何度来てもどこか慣れそうで慣れないマンションの前に下り、ふと目を向けるときらきらと反射する白の上に見慣れた緑のパーカーと柔らかい茶髪。
「…っ嶺二!?」
コートも着ずにこの寒空の下いるだなんて、一瞬最悪の事態が頭をよぎるがすぐに頭を振ってその考えを振り払う。
「へっ?ランラン?」
走り寄った物体――嶺二が勢いよく起き上がる。
寒さのせいか、鼻頭が真っ赤になって目をこれでもかと丸くする顔は、到底アイドルとは思えないほど。
「どしたの!?今日は夜中まで収録だって…。」
「早く終わった。…っじゃなくて、お前なあ!」

いつもとなにも変わらない様子にいらぬ心配をかけるなと怒りがこみあげるのと同時に安堵の息がこぼれた。
まっさらな雪の上に、きれいに嶺二の身体の跡だけがくっきりと残っている。
ボフッ
脱力したのと同時にふと、童心に返ったような懐かしい気持ちに襲われて身体の跡の隣に同じように倒れ込んだ。
柔らかく、冷たい白は頬を冷やし、気持ちも落ち着かせてくれる。
嶺二の予測不可能でどこか危なっかしい行動に焦り苛立ったことさえも、もうどうでもよく思えてくる。
「ランラン、冷えちゃうよ。」
「うるせえ、雪国育ちなめんじゃねえよ。」
「はは、そっか。ランラン、寒いところで育ったんだもんね。…ミューちゃんと同じように。」
「は?なんでそこでアイツが出てくんだよ。」
「…ミューちゃんとランランってさ、仲良しだよね。」
「てめえ、どこ見て言ってんだ、嶺二。」
「僕も、どこか寒いところで暮らしていたら。何かが、違ってたのかなあ…。」

嶺二のことばはひとりごとのように、俺がいてもいなくてもなにも変わらないかのように紡がれて。
澄んだ夜空に溶けていく。
「…そうだとしたら。もし、お前がどこかここじゃない、寒いところで暮らしてたのなら。俺は、お前と出会えてねえ。」
「…そう、だね。ふふ」
この冷たく儚い雪と共に、嶺二もどこかへ消えていきそうで。
思わずつかんだ手は冷たく、自分の心臓を冷たい手で撫でられたような心地になった。
いつの間にか、自分の中でこんなに大事な存在になっていたことと目の前にいる男がどれだけ不安定に生きているかを痛感させられる。
「お前っ!馬鹿か!」
「…コート、忘れて出て来ちゃった。」
どこか泣きそうな顔でくしゃりと笑う嶺二に、思わずその冷えた身体を腕の中に引き寄せた。
「ランラン。」
「…うるせえ。こうすりゃ少しはあったまんだろ。」
「そうだね。」

腕の中で嶺二が微かに笑った気配に少しだけほっとして。
真上に目をやれば、東京とは思えないほどの星の煌めきに、タイムスリップしたような気分になる。
幼い頃、星空を家族で見上げたことがあった。
まだ何も知らず、何も壊れていなかった頃の幸せだった、記憶。
もうあの頃には戻ることはできないが、あの頃と同じように隣にいるのが愛しい人だと言うことには変わらない。
きっといつか、同じように今日この日を思い出すのだろう。
嶺二と共に見た寒い雪の日の星空を。
その時もどうか、隣を歩いていることを柄にもなく願った。
体温を分け合う嶺二も何も話さなかったけれど。
きっと同じ事を考えているんだろうと、自然と思った。

「…中、入ろうか。」
「そうだな。」
ふいに嶺二が発した言葉に雪の上から身体を起こす。
身体の芯まで冷えきって、手先の感覚はすでにない。
「ほら。」
まだ座り込んでいる嶺二に手を差し伸べれば素直に重ねてくる冷たい手に思わず笑みがこぼれる。
「…ランランが、優しい。」
「あ?」
何か悪いものでも食べたんじゃないかと言わんばかりに真剣な顔で言う嶺二に呆れ、ちょっと仕返しをしてやろうかといたずら心が動いた。
「ん…!?」
「っ…は…。嶺二、カミュと俺がどうのこうの言ってねえで。てめえは、俺だけ見てればいーんだよ。」
ごちゃごちゃと独りで悩んだ挙げ句に人の行為を素直に受けない仕返しだとばかりに耳元で囁いてやる。
触れた互いの冷たい唇から熱が広がる。

「…ズルいよ、蘭丸。」
「…ふん。ほら、お前のせいで冷えちまったじゃねえか。」
「ごめんって。あったかいコーヒー、淹れよっか。」
「おー、その前に風呂と飯な。」
「はいはい。」


雪夜の願い
(「どうかこの先も、隣に君がいますように。」そう二人が願ったことを知っているのは、雪の夜の星空だけ。)