ほしぞら1/2

ぽつぽつ書いている二次創作小説たち。ジャンルごった煮。Twitter@bbb_kzs

【トキ友】とある恋の話

※捏造注意

マスターコースに(シャイニング事務所)に在籍しながらHAYATOを続けかけているトキヤ、

ST☆RISH結成されてない、トキヤのパートナーは春歌

苦手な方はご遠慮下さい。

 

ひよこに捧げます、お誕生日おめでとう。

2014.02.12.

 

 

 

本当にそれはたまたまだったのだ。
それは見慣れた、というよりも聞き慣れていた仕草。

早乙女学園を卒業後、新人アイドルとしてシャイニング事務所に籍を置けることになった私は、あるバラエティー番組のアシスタントを務めさせてもらえるようになっていた。
初めてのレギュラーで緊張することばかりだったが、いつも現場は楽しく、仕事をさせてもらっていた。
そんなある日のゲストは「国民的超人気アイドル」として活躍しているHAYATOだった。
本番はもちろん、カメラが回っていないところでも現場をあのおどけたようなキャラクターで和ませ、収録をスムーズに進めている様子は不自然さを全く感じさせず、学ぶことが多かった。
まだ駆け出しであり、無名である私にも平等に気を配ってくれていたことには驚いたけれど。
そして何より、彼は学園時代からの親友・七海春歌の憧れの人であり、同期であり彼女のパートナーである一ノ瀬トキヤの双子の兄。
私の、憧れである2人と深い結びつきのある人。

 


春歌の作る曲も、それを歌う一ノ瀬さんも。
私にはいつだってそれがきらきらと輝いて見えて、眩しかった。
ふたりのうたはみんなのためのように見えて、春歌が一ノ瀬さんのために作った歌を、春歌のために一ノ瀬さんが歌う、2人だけの世界。
学生時代から、それは今も変わっていない。
あの2人のようにお互いを支え合い、思い合っていることが見える関係は私にとって憧れだった。
もちろん私にも良いパートナーがいて、良い曲を作ってくれてはいたのだけれど、それでもどこかあの2人とは違う。
いつだって私の求めていた世界を2人は作っていた。それが、羨ましかった。
お堅いと称される一ノ瀬さんも春歌には笑みを浮かべて接していたし、春歌もいつも楽しそうだった。
自分の仕事に妥協はしていないし、いつだって本気で取り組んではいるけど、それでも大好きな人達に少しだけ劣等感を抱えて、私はアイドルを続けている。

 


「…あっ。」
番組の休憩中、ふと考え事をしていたらしい“彼”が無意識にか、口元をおさえた。
それは、春歌がよく言っていた一ノ瀬さんの癖と全く同じもので。
言われてみれば、学園時代に考え事をしているらしい彼の姿はいつもその仕草をしていたように見える。
「…一ノ瀬、さん?」
まさかと思いつつ、それでもついぽろりと名前を呼んでしまった。
「友千香ちゃんどうかしたかにゃ?」
HAYATOさん…って一ノ瀬さん、ですか?」
「…なにを言ってるかにゃ?」
「そのなにか考える時に口元をおさえる仕草、一緒ですよね。さすがに双子とはいえそこまで一緒になることはないか、と、思いまして………すみません。」
「……はぁ。まさかそんな癖一つで正体を暴かれるとは、私もまだまだ甘いようですね。」
「!?一ノ瀬さん!!?」
「ちょ、っと。声が大きいですよ。」
「あ、ごめんなさい。」
「その通りですよ。HAYATOは私の兄などではなく、アイドルとして活動する別の姿です。」

ふっと息をついて諦めたように自身の正体を明かしたあと、HAYATOこと私の同期である一ノ瀬さんはざっくりと、しかしわかりやすく彼自身について語ってくれた。
HAYATOは現在“HAYATO”が所属している事務所のプロジェクトとして作られた架空の人物であるということ。一ノ瀬トキヤとしてシャイニング事務所に所属することは伝えてあり、現在HAYATOとしての仕事は徐々に減らしていること。
そんな大層な話を私なんかにしていいのかと尋ねれば、あなたが口が軽い人だとは思っていませんと一蹴された。
そしてなにより驚いたのは、春歌は唯一この事実を知っているということ。
「…何も言ってなかった、あの子。」
「口がかたいのですね、七海さんは。」
「ええ、あの子は約束は絶対に守る子よ。」
「…そのようです。」
ふっと隣で笑った気配に。
ああ、彼らは信頼し合ってお互いをさらけ出しているのだと、また少しだけ胸の奥が苦いことにはいつものように、見ないフリをした。


HAYATO”との初共演が終わったあとも、何度か彼と一緒に仕事をする機会は増えた。
いつも彼はきっちりとHAYATOを演じ、アイドルとしては先輩である彼から学ぶことは相変わらず多かった。
変わったことと言えば、休憩中など2人でいる時は“HAYATO”の仮面をかぶらなくなったことだろうか。
HAYATOのやけに高いテンションも、語句につける猫のような「にゃ」という言葉も。
本来の彼からすればそれなりの無理を強いられているらしいことは休憩中になると少し表情を崩し息を漏らすことから容易に想像できた。

HAYATOと仕事を共にすることが増え、それと同時に現場だけではなく事務所で一ノ瀬トキヤとしてすごしている際に彼と話すことも増えた。
学園時 代からの真面目なだけのイメージだったのだが(同じクラスであった神宮寺さんたちに言わせれば、イッチーはユーモアに溢れている、らしいのだけれど。)話 しているうちに彼が博識で興味は多岐にわたっていることを知り、演技のことから歌のこと、マスターコース中で直属の先輩がおとやんとそっくりで散々手を焼 いていること、様々な話をした。
特に学 園時代からの同室であるおとやんとは根本的に生活リズムや性格合わないらしく(傍目からは仲が良さそうに見えるが)相当大変だったらしいのだけれど、マス ターコースが始まってからはさらに寿先輩というおとやんのさらに上をいく人物に毎日振り回されているようなのだった。
話していると今まで彼に持っていたお堅いイメージなんてどこから来ていたのか疑うほど、いつも優しく笑みを浮かべて話す彼はそんなに悪い人ではないのかもしれないと思うようになり、彼はきっと不器用なだけなのだと気付いた。
少しだけ人付き合いが不器用なだけで実はとても優しい人だということに。
そして、そんな彼と話すことをいつも楽しみにしている自分にも。


春歌に久しぶりにお茶をしないかと誘われたのは、そんなある日のこと。
作曲家として同じように事務所に籍を置く親友は、パートナーである一ノ瀬さん以外にも曲を提供するようになり、着実に実績を積んでいた。
お互いになかなかゆっくりと言葉を交わすことが難しくなってきていただけに、積もる話に花が咲いた。
「友ちゃん、可愛くなったね。」
にっこりと微笑みながらそう言われたのはそんな中でのことだった。
「…へ?」
「なんだか友ちゃん、きらきらしてます。元々可愛いけど、更に可愛くなったというか!」
「なんでだろう…?でも、ありがとね!春歌に言われると自信つくよー!」
率直に物を伝えてくる親友を前に、思わず照れる。
いつものようににこにこと微笑みを浮かべている春歌を前にある思いが浮かぶ、少しだけ、彼女なら、全てを受け入れてくれるのではないかと。
「ねえ、春歌」
なんですか?と小首をかしげる可愛い私の親友を前に、私は今までの思いを吐露した。
春歌と一ノ瀬さんのパートナー関係に憧れていたこと、そして少しだけ嫉妬していたこと。
ごめんね、と最後に小さく告げると目を丸くした彼女になんで友ちゃんが謝るのと怒られた。
「…友ちゃんが、そう思ってたなんて気づけなくてごめんなさい。」
「や、春歌が謝ることじゃないから。ごめんね、突然こんな話して。」
春歌に気負わせてしまったかと少し後悔をしていると、目の前の彼女がふんわりと微笑んだ。

「最近、一ノ瀬さんに会うと友ちゃんの話ばかりしてるんですよ。」
「…え?一ノ瀬さん、が?」
「うん。HAYATO様のことも聞いたよ。」
「あ、そっか。春歌は知ってたんだっけ?HAYATOと一ノ瀬さんの、こと。」
「耳の形が一緒なの。」
「…耳の形?」
「うん。HAYATO様と同じ耳だからまさかと思ってたら、本当だった。」
てっきり、一ノ瀬さんから春歌に話したものだと思っていたのだけれど、まさか春歌の方からだったとは思わずになんだか拍子抜けしたような気分だ。
それでね…。

最後にクスクスと笑いながら春歌が言った一言に頬が熱くなるのを隠しきれないままこれから打ち合わせだという春歌と別れ、寮の自室に戻る。
部屋で一息ついたあとに、そういえば明日は“HAYATO”との仕事が入っていたことを思い出して身体に熱が戻ってくるのを感じた。
ここまで来てしまうともう、自分の気持ちに嘘はつけない。
いつの間にか、あたしが一ノ瀬さんへ抱く想いは憧れから“好き”に変わっていた。


「おはようございます!」
いつもより少しだけ緊張して、楽屋の扉を開く。
まだ誰もいない楽屋に拍子抜けしたのと、少し安堵のため息がもれる。
「友千香ちゃん、おっはやっほ~!」
メイクを済ませ、一息つこうかとペットボトルに手を伸ばしたところで開いていた楽屋のドアからひょっこりと、昨日からずっと緊張を強いられている原因が顔を覗かせ、思わずむせてしまう。

「ちょっと友千香ちゃん、大丈夫かにゃ~?」
HAYATOのまま心配そうにこちらを見やりながら扉を閉める一ノ瀬さんを思わず涙目のまま恨めしく睨んでしまう。
「…なんです。」
不思議そうに見下ろされて、なんでもないと首を振る。
彼はさも当たり前であるかのように机を隔てた向かい側に腰掛け、いただきますよと机の上においてあった差し入れのお茶を口に含んだ。
ぼんやりと彼が飲み物を嚥下し、喉仏が動いていく様子を見つめていた。
「…渋谷さん、どうかしましたか。」
ふと彼自身に声をかけられて我に返る。
「あ、いや……。」
「…昨日、七海さんと話しましたよ。」
「春歌、と?」
沈黙を破るように彼の口から話されるのは昨日会った親友のこと。
「ええ、新曲の打ち合わせがあったものですから。そこであなたと久しぶりにゆっくり出来たと話していました。」
「…そっか。」
2人の話題に自分が出たことが嫌だなんてことはなにもない。寧ろ少しだけ照れくさく嬉しいことなのだけれど。
彼が「七海さん」と発する言葉の柔らかさと微かに甘さを含んだ響きと、愛しいものを思い出すような優しい瞳。

--- ああ、やっぱり。
一ノ瀬さんは、春歌を想っている。

そうだとわかった瞬間に誰かに心臓を握られているように、胸の奥が苦しくなる。
「…っ、渋谷さん!?」
気付くと目の前が水の膜で覆われ、向かい側に座る一ノ瀬さんがぼやけて見える。
あたしは思わず楽屋から飛び出していた。
後ろから一ノ瀬さんの声が聞こえたけど、振り払って走った。

スタジオの裏の非常階段、人気が無い場所に無意識に逃げ込んでいたらしい。
壁に背中をつけ、一息つくとそのままズルズルと床にへたり込んでしまう。
わかっていた、はずだった。
春歌は一ノ瀬さんをパートナーとしか見ていなくても、一ノ瀬さんが春歌に好意をもっていても全くおかしくない話で。
守ってあげたくなるような優しく可愛らしい、それでいて強い芯を持つ女の子。それだけでなくあれだけ魅力的な曲を作るのだから。
「…私とは、正反対。」
口から思わずこぼれた言葉は小さく階段に反響して消えた。

“一ノ瀬さん、友ちゃんの話をする時、笑ってることが多いんだよ。”

ふと昨日、親友が別れ際に言った一言を思い出す。
「でも、春歌。私じゃ無理みたい。…きっと、春歌と話してるからだよ。」
言葉にすればするほど、そうなんだろうとしか思えなくなってまた止まっていたはずの涙が溢れる。
「仕事、だぞ、あたし。」
メイクが崩れるとぱん、と頬を叩いても次から次へとこぼれ落ちる涙はとどまることを知らない。

ガチャリ
「い、たっ。…し、ぶや、さん。」
突然真横の扉が勢いよく開き、そこから紺色の頭が飛び出してくる。
本番の衣装のまま、うっすらと額に汗をかいた彼がいた。
「…なにか、気に、障ったことを、言ってしまった、ならば。すみません。」
楽屋を飛び出したあたしを追ってきたらしいのは“HAYATO”ではなく、“一ノ瀬トキヤ”で。
追わずにあとで一言かけるだけでいいのに、わざわざ息をきらして走ってきた彼に思わず笑ってしまう。
気付けばあれだけ流れていた涙も止まっていた。
「…ふふ、一ノ瀬さんって。やっぱり面白いですね。」
そう告げるとさも心外だという顔をする目の前の彼がおかしくて。
ああ、私やっぱりこの人のことが好きなんだ、って実感して、そしたらもう色んなことがどうでもよくなった。
彼が、私の親友を好きでも、潔く振られたって構うものか。
この想いを告げさせてほしい。
座り込んでいたところから、ぱっと彼の前に立つ。

「一ノ瀬さん。…あたし、」

(「あなたに先を越されてしまいましたね」)
(そうやって優しく笑うの、ほんとにズルい。)


2人なら大丈夫だと思ってましたよ、と親友に微笑まれ。
お互いを名前で呼ぶようになり。
理由をつけなくても、笑ってあなたの隣を歩けるようになるのは、
また別のお話。