ほしぞら1/2

ぽつぽつ書いている二次創作小説たち。ジャンルごった煮。Twitter@bbb_kzs

【レンマサ】Ti amo percome sei

レンくん、お誕生日おめでとう!

かっこよくてかわいいあなたが大好きです。

 

2014.02.14.

 

 

「誰よりも、一番に祝いたかった。」
そう言えばお前はどんな顔をするのだろう。

ガチャリ
早朝、鍵を開ける音がマンションの廊下に思いもよらず大きい音をたてて響き、びくりと体が跳ねる。
合い鍵があるとはいえこっそりと入るのはやはり心臓に悪い。
「…邪魔をする。」
一応自分の家ではないわけで、小声で挨拶をして部屋に入る。
廊下を進む途中でそっと寝室を覗けば、規則正しく上下する布団が見える。
特に物音で起こすこともなかったらしいことにひとまず安堵して、そのまま台所にあがりこむ。
冷蔵庫を開けば案の定料理で使えそうなものはほとんどなく、空に近い冷蔵庫の中身は数週間前に自分が持ちこんだ日持ちのする食材のみ。
「自炊をしろとあれほど言ってるのに、全く。」
食生活は健康に直結すると散々口を酸っぱくして言っても全く聞き入れる気配のない、この部屋の主に思わずため息が出た。


とりあえず準備をしようと着慣れた割烹着を身につける。
驚かせるために早朝から合い鍵をこっそりと使って入り、朝食をつくろうとしているが、パーソナルスペースに人を入れることを好まないことに思い至り今さらながらに不安になる。
“そこは「恋人の特権」だろ。”
しかし、ふと数日前にこのことを相談し、色々と教えていただいた時に先輩である黒崎さんから言われた言葉を思い出した。
まあいいかと思うようにし、準備にとりかかる。

奴の好きなイタリアンを作ることも考えなかったわけではないけれど、やはり朝は和食だろう。
演技の仕事が多い自分とは違い、モデルなどでの露出が多い彼は最近テレビや雑誌などで目にしない日はないと言うほど。
同じように活躍している来栖から話を聞くに、あいつの仕事量は最近では目を見張るものらしく、たしかに最後に落ち着いて2人であったのはいつだったろうかと思えば、思いだすことができない。
冷蔵庫を見てもわかるように、どうせ碌に食事もとっていないのだろう。
滋養には和食がちょうどいい。
ただ、甘いものをほとんど食べることのない奴でも唯一好んで食べるイタリアのお菓子、ティラミスは昨日のうちに作り持ってきた。

トントントン
包丁でリズムよく野菜を切る、いままで何年も繰り返してきた動作。
台所に立つと気持ちが落ち着くのは昔からの慣れだからだろうか。
気付けば手足が冷えていた。どうもいつもよりも冷え込みが激しいらしい。
いつものようにどうせ薄着、というよりこの真冬でも何も纏わずに寝ているのだろう、来る途中覗き込んだ寝室の布団を思い出した。
風邪を引かれては困ると食事を作る手を止め、暖房をつける。

ふと窓の外に目をやればちらちらと空から雪が舞い落ちてきていた。
家を出た頃はまだ雪など降っていなかったのに。
降り始めてから少し時間が経つのか、うっすらとすでに積もり始めている。
雪化粧をした世界は美しい。
「綺麗なものだ。」
今日という日に思ってもいなかったプレゼントのように思えて、思わず無意識のうちに笑みが浮かんだ。

 

*

 

トントントンと小気味よい包丁の音でぼんやりと目が覚める。
「……味噌汁?」
ふわりと微かに鼻をくすぐるのはマスターコース時代によくかいでいたみその香り。
もそりと布団から出ればいつもよりも冷たい空気に肌が粟立つ。
肌の上から服を羽織り寝室をでる。
そこには見慣れた割烹着に身を包み、窓際で外を眺めるおかっぱの恋人の姿。
手入れの行き届いたさらりとした髪が今は耳にかけられ、端正な横顔が上気しているのがよく見えた。
その様子はいつもよりも幼く見え、ふと幼い頃に2人でパーティーを抜け出していた時、自分の横で楽しそうに頬を上気させる少年を思い出した。

「…聖川?」
「…っ、ああ。神宮寺、起きたか。…またそのような薄着で、今何月だと思っている…」
「はいはい…。」
声をかければぱっとこちらを向き、表情を戻すといつものようにオレの姿を見て小言をもらしはじめる。それを聞き流しながらはいはいと返事を返す。
いつも通りのやりとりだ。
つっと聖川の隣に並んで外を見やれば、白い欠片が舞い落ちてきていた。
「……雪、か。」
「ああ。綺麗なものだ。」
噛みしめるように呟く、真斗の表情が愛らしく見え、思わずそのほんのり赤く染まる頬にキスを落とす。
「コホン…席につけ、神宮寺。朝食が冷める。」
「はいはい。にしてもお前が合い鍵を使うなんて珍しいこともあるもんだ。」
「う、うるさい。別に問題は無いだろう…。」
「問題はないさ、寧ろいつもでも大歓迎なぐらいだよ。」
無理やり押しつけるように渡していた合い鍵を、普段全く使うことのない聖川が今日に限って使ったことに首をかしげつつ、それでも使ってくれるのは大歓迎である。

台所に戻って準備をし始める聖川が並べる朝食は、いつも通りの和食、なのだが。
普段なら並ぶことのないであろう腕ものや酢の物、はたまたお造りまで揃っている。
「…聖川、今日はなにか特別な日かい?」
不思議に思い、思わずそう問えば心底呆れたと言わんばかりの顔をされる。
いただきます、と料理に箸を運べばもちろん聖川の料理はどれも美味しいのだけれど。
あ、ため息までつかれた。


「……馬鹿者。今日は、お前の誕生日だろう。21歳おめでとう……レン。生まれてきてくれたこと、出会えたこと、心から感謝している。」
呆れたように、でもどこか幸せそうに頬を染めて口を開いて言われた言葉は思ってもいなかったことで。
思わずぽかんと食事の手を止めてしまった。
言われてみれば、今日2月14日は自分の誕生日である。
毎年、仕事先で誕生日を祝ってもらうことは多い。
ファンを含めたくさん人たちに祝われるのはありがたいことだが、ある意味誕生日とは格好の宣伝の機会でしかなく。
自分が生を得た日だとか、そういうことに関してはほとんど気にも止めていなかった。
幼い頃から誕生日のパーティーといえばただの挨拶回りでしかなかったし、たくさんの人がお祝いしに来たとはいえ所詮 “神宮寺財閥の三男坊の誕生日会”は大人達の体の良い社交の場として利用されていたくらいだ。
来客に形式上感謝さえすれどそれが幸せであったかと言われれば、よくわからない。
一度だけ、聖川が父親に連れられてきたことがあったが、1番幼い彼の祝いの言葉が1番胸に響いたことぐらいだろうか。
今までずっと、自分の生まれた日を祝われることも、何も思っていなかった。
そのはずだったのに。
今、目の前にはあたたかな手料理が並び、愛しい人が頬を染めて微笑んでいる。そして生まれてきたことを、出会えたことを心から嬉しいと祝ってくれている。


---- ああ、これが、“幸せ”なのだろうか。

突然泣いてしまいたくなるような感情の波に襲われ、胸の奥がきゅっと音を立てた。
きっと自分はずっとずっと求めていたのだろう、この言いようのない小さいようで大きな幸せを。
心から幸せだと、今なら言える。

そうだ、と言って立ち上がり聖川が冷蔵庫から持ってきたのは。
「…ティラミス、かい?」
「お前、ティラミスは好きだっただろう。黒崎さんに教わってな。」
「ランちゃんが、かい?」
「ああ、お前の誕生日だと言ったら快く教えてくださった。」
そう柔らかく言う聖川に、覚えていたのかという驚きと慣れないであろう洋菓子を自分のためにわざわざランちゃんに教わってまで作ってくれたという恋人の姿を想像し、無性に愛おしくなる。
やわらかいティラミスに1本だけ、ろうそくが立ちゆらりと火が灯る。
「おや、年齢の数だけ立ててくれるんじゃないのかい?」
「そうしたいところなのだがな。21本はさすがにこのやわらかさでは無理だ。すまんな。」
「別にそんな本数にこだわりはないから、平気さ。」
「だが、俺が立てたかったのだ…。」
少しからかうように言えば、しゅんと落ち込む目の前の大の男。
そういうところが可愛いのだが、わざわざ落ち込ませようとしたわけじゃない。
「でも、嬉しいよ。」
「すまんな…だが、ろうそくの本数が何本であろうと俺の気持ちは変わらんぞ。」
そうまっすぐ伝えてくる恋人にはどうも、敵わないらしい。
普段とは違い、まさか自分がサプライズをされる側になるとは。

「ありがとう、真斗。…ずっと変わらず、愛してる。」
そう囁くように言ってやれば、目の前で目尻を朱に染めふんわりと微笑む恋人が愛しくて。
思わず机から身を乗り出して唇を重ねる。
「なっ…!早く火を消さぬか。」
顔を真っ赤に染める真斗の可愛らしい様子にクスクスと笑いながら再び席につく。

「いつも、ありがとう。俺も、愛している……レン、お兄ちゃん。」
小さく、でもしっかりと見つめながら伝えてくる向かいに座る幼なじみであり、弟のようであり、永遠の好敵手である愛しい恋人に、今度はこちらが顔を熱くする番で。
熱くなる頬を隠すようにして、ゆらゆらと柔らかく光るオレンジ色めがけて息を吹いた。

 

 

Ti amo percome sei

(この先もどうか、共に歩んでいけますように。)