ほしぞら1/2

ぽつぽつ書いている二次創作小説たち。ジャンルごった煮。Twitter@bbb_kzs

【翔藍】キミに笑顔を、ボクに心を

Twitterで美風先輩が泣かせに来やがった勢いです。好きです。

まかの誕生日に捧げます、おめでとう。

 

2014.02.17.

 

 

ボクがやっと得たものは、みんなには当たり前のものなのだろう。きっと。

 


近いうちに事務所に寄るようにとリンゴから連絡が来たために、久しぶりに仕事終わりに事務所に向かった。
なにかにつけてみんなで事務所に集まることはあったが、なんだかんだありがたいことにアイドルとしての仕事は多く、普段事務所にはよほどのことがなければ寄りつくことはなかった。
大抵の連絡はいま行われている舞台の楽屋やメールで済まされている。


空気がいつもよりキンと冷たく感じるのは道端の白のせいだろうか。
先日降った大雪はいまだに道に残り、雪に慣れていないらしい都会の車はおっかなびっくりとゆっくり道を走っている。
ふと無意識に自分の手のひらをこすりつけ、はあっと息を吐きかけていた。
寒い、と感じることは−−あくまで肌の表面についている外気温感知センサーの測定なのだが−−あっても、それを温めようとする無意識の行為は確実にある人の影響で。
思わず嬉しいような、気恥ずかしいような、そんな複雑な気持ちになる。
“身体は冷やすんじゃねえぞ!”
自分にとって暑いならともかく、この寒さは特になんの影響もないのだけれど。
そう言っても聞き入れずに言い聞かせてくる彼を思い出して思わず笑いがこぼれた。

「あら、藍ちゃん〜!わざわざ呼び立ててごめんなさいね〜。それを持って行ってほしくて。」
事務所に着けば、呼び出したリンゴ本人から声をかけられた。
ふと目をやれば“みかぜあい”と大きくマジックで書かれている大きな段ボールが二箱。
「なに、これ。」
「ファンレターよ。量が多いから早めに家に持って帰ってもらった方がゆっくり読めるでしょう。」
たしかにファンレターは定期的にリンゴがアイドルたちに仕分けてくれていたものだけれど。
さすがに段ボール二箱という量は初めてで、少し驚く。
リンゴ曰く、バレンタインに事務所では食べ物の類を受け付けなかった分、ファンが手紙を送ってきてくれるのだと言う。
たしかに数日前にあったバレンタインデー、女の子が好きな男の子にチョコを贈って思いを伝える日。
たしかにシャイニング事務所ではバレンタインに食べ物は受け取れない代わりに手紙は歓迎だとファンに伝えていた。
想像はしていたものの、事務所の一角を占める段ボールの群れは少しだけ窮屈そうで、それでいて何かを待ちわびているようなどこかそんな雰囲気を醸し出していた。ただのダンボールのはずなのに。

部屋に帰り、一息ついたところで段ボールから一通ずつ読んでいく。


"いつも歌に元気をもらってます!"
"初めてお手紙ださせてもらいます。"
"最近はあそこのごはんにハマってます。よかったら食べてみてください!"
"好きな人に告白が出来てないのですが、歌に少しずつ勇気をもらってます。"

喜び、興奮、緊張、悩み、好意。
アイドルとしてのボクを応援することばから些細な日常まで。
紙の上に一人一人の様々な感情が溢れている。
ボクが生まれてから一つ一つゆっくりと手に入れてきたものと同じ感情が。人間にすれば当たり前の感情が、この小さな紙の上に綴られている。
この手紙を書くのに時間を割いてくれたこと、一人一人感情を分け与えてくれたことを考えると胸の奥があったかくなって、嬉しい。
でも少しだけ、羨ましい。
ボクは、この自分の感情を人に残す術を知らない。
このみんなからもらった感情を、どうやって伝えればいいのだろう。
どんなに似ているとはいえ、やっぱりボクは人間とは違うのだ。


ピンポーン
ぼんやりと手紙を読んでいるとインターフォンが鳴る。
“藍〜、いるか?”
ふっと覗くと金髪の髪が画面越しに揺れている。
「…どしたの、ショウ。」
「あーいや、藍どうしてっかなと思って。…なんかタイミング悪かったか?」
「いや、別に。」
ドアの前でなんとなく居心地悪そうに立っていたのは後輩であり、恋人でもあるショウ。
「突っ立ってないで、入れば?」
「お、おう。お邪魔します…」
自分から訪ねて来たのにぼんやりと玄関に立ったままのショウに声をかければ恐る恐るといった様子で部屋に入ってくる。
別に部屋に入ること自体は初めてではないはずなのに。
「…あー、お前もファンレターすげえな。」
「うん…。みんなの気持ちをこうやって形にして、ボクに与えてくれてること。感謝してる。」
「そうだよな。こうやって時間をかけて形にしてくれることは嬉しいよな。ファンのみんなの思いの欠片っていうかさ。」
「……ボクの感情も、形に残すことができるの、かな。」
「藍…。」
ふとショウを前にしてこぼれたことば。それは、ボクの思い。
こうやって形に残るもので伝えてくれたファンのみんなのように。
みんなと同じような人でないボクは何ができるのだろうか。

「ボクは、人じゃない。ボクのこの感情も思いも、全部、作り物だ。……みんなが、羨ましい。」
「…藍、お前がこの手紙をもらった時、どう思った?読んでみて、どう感じた?」
「数が多くて、びっくりした。たくさんの人がボクのことを応援してくれて、こうやって伝えてくれることは、嬉しい…。」
「それは、お前の思いだ。作りものでも、誰のものでもない。嬉しいと思ったこと、羨ましいと感じたこと、悩んだこと、お前が人じゃなかろうとそれは全部、藍のものだ。」
「…ボクの、もの。」
「ああ。お前の思いはお前の宝物だからな。」
「そっ、か。」
「大切にしろよな。それはお前のもので、藍が思うようにゆっくり形にしていけばいいんだからさ。」

そう言って笑うショウに、いままでひとりで考えていたもやもやが少しずつ晴れていくような気がした。
いつだってこうやってボクを導いてくれるのはキミなんだよ、ショウ。
「月宮先生が藍の様子がちょっといつもと違ったっていうから、来てみてよかったぜ。ちょうど会いに行こうとしてたところだったしな。」
そう言うショウにはやはり敵わないのだと。
ふと、無意識に彼が自分の支えになっていることに気付く。
「…ありがとう。ショウ。」

−−−ふんわりと胸があたたかくなるのも、この思いも、きっとボクのもの。



【@AI_M_SH 手紙を読んだよ。】