ほしぞら1/2

ぽつぽつ書いている二次創作小説たち。ジャンルごった煮。Twitter@bbb_kzs

【翔藍】ゆめであいましょう

男気全開!!!!

ってなわけで遅刻してしまったけど、いつも上を目指して男前な翔くんに捧げます。

お誕生日おめでとう!

 

2014.06.19.

 
 

 

がんがんと頭の内側から何度も殴られているような鈍痛。ぼーっとする頭は体温がいつもよりも高いことを告げる。
風邪、か。意識はぼんやりしつつもその二文字が頭に浮かべばこのいつもとは明らかに違う症状は納得だった。
たしかに最後に一日オフを取れた日はいつだったか思い出せないし、梅雨に入りころころと変わる天候に季節の変わり目は体調管理に気をつけるべきだということも理解はしていた、一応。
それでもこんなに寝込むのなんていつぶりだろうか。
それもよりによって今日という日に。

「おめでとう翔ちゃん。」
「おめでとう薫。」
きっ ちり日付が変わった時にかかってくる電話で互いを祝うのは毎年のこと。いつもと少しだけ違うのは電話口であっさりと医者の卵である薫に体調不良を見破られ たこと。そしてそのまま電車もバスもないこの時間に東京に向かってきそうな勢いに(彼ならやりかねない。)今日一日休養を取ることを約束になんとか押しと どめたのは数時間前のこと。
テンションが高く更に心配かからか普段よりも大きくなっていた声は頭痛と共鳴して増幅する。それでも心のどこかで安堵している自分がいるのはやはりずっと一緒にいたからだろうか。
アイドルになるために実家を出てからも治らないどころか輪をかけて兄好きに磨きがかかってきて過保護すぎないかとたまに呆れることのある彼でも、やはり自分にとってはなんだかんだ大切な弟なのだ。

ぼ んやりと自室の天井を見上げながら相変わらずな双子の弟のことを思い出しているとふと誰もいないはずのキッチンで物が動く気配がした。来客予定はないはず で、ましてやこの体調では誰がきても相手はできない。早々にお引き取り願おうと布団から出れば、床についた足元がふわふわとおぼつかないことに苦笑がもれ た。最近はしっかり鍛えて身体はある程度丈夫になったと思っていたのだけど、久しぶりの風邪は予想外に身体に影響があったらしい。


トントントントン
「おはよう。」
「・・・・・ああ、おはよ。」
「もう寝てなくて平気なら座って。もう出来るから。」
「おう・・・・・・・・・・って藍!?なにやってんだよお前!!!・・・っ。」
「なにってお粥作ってるけど。自分で大声だして頭に響くって、馬鹿なの?」

扉を開けた先にはテンポ良く小刻みに包丁を動かす碧の姿。間抜けな声に、呆れたようにこちらを向く藍のその碧色の瞳に頭を抱えた俺が映る。口元に微かに浮かんだ微笑みに少しだけ、体温が上がった気がした。
普段だったら滅多に見ることのない、自分の家の台所に藍がいるという不思議な光景ながらに中身は通常運転な藍に思わずくすりと笑いが漏れる。

「あーうん。…どうやって入った?っていうかなんでいる?」
「ん、たまご粥。少しぬるめに作ったからすぐ食べられると思うよ。はい。」
「おう、ありがとな。…って答えになってねえよな?」
「熱は?ちゃんと測った?はい、水分もろくにとってないでしょ?睡眠は…まぁそれだけ寝てられたなら十分かな。」
「え、あ、おう。」
「…カオル、だよ。」
「薫?」
「連絡して来たんだよ。夜中に突然"緊急"って長文のメール送って来るんだからなにかと思ったよ。」

そう言って少しだけ唇を尖らせる仕草は拗ねる時の癖。ボクは知らなかった。ボソリと呟かれた言葉にそういえば具合が悪いだなんて一言も藍に伝えてなかったことを思い出した。
「あーー。お前と薫がいつの間にアドレス交換をしてたかは今回はおいとくけど…その、悪かったな…。」
「別に。おかげでショウのところに来れたし。風邪の看病スキルはダウンロードしてきたから安心してよね。」
「ちょっと、ショウ。」
少しだけ誇らしげに微笑む恋人に思わず手が伸びる。抗議の声をあげながらも頬を染めるその姿に顔を寄せた。
「……愛してる。」

ぽろりと零れたことばは思いの外反響してーー

*

ぱちりと瞼を開ければ目の前には見慣れた白い天井。
「あ、やっと起きた。」
聞き慣れたアルトの声が聞こえたと思えば視界に映りこむ碧い髪。
「…え、藍?」
「おはよ、ショウ。…全く。あれほど体調管理には気をつけるように言ってたのになにも学んでないの?プロ失格だよ。」
「あー、うん。反省してる。…で、俺はずっと寝てた?」
「何言ってるの、そうだけど。もう夕方だよ。」
「え、あ、たまご粥は?」
なぜ自分が布団の中に戻っているのかという疑問にも襲われながらふと、手をつけていなかったたまご粥のことを思い出した。
「たまご粥?寝ぼけてるの?」
「…いや、なんでもねえや。」

呆れたように顰められた整った眉にそれ以上の追及は出来ず、ぼんやり夢だったのかと思いながらぽすりと再び柔らかい布団に舞い戻る。
「はい。水分ちゃんと採ってまた寝ること。今日はもう動くの禁止。」
「なんかもう寝過ぎちまったぜ…。起きていいか?」
「だめに決まってるでしょ。安静にって言ったってどうせショウ動くだろうから。ほら今日はちゃんと寝る!」
「……はーい。」
「おやすみ、ショウ。」
「ああおやすみ、藍。」
軽く目元を押さえるように触れられた手のひらはひんやりと冷たく。
たまご粥の謎も、顔を寄せたはずの藍の感触も、全て夢だったのか。
それでもいまここに藍がいるという事実に全てどうでも良くなって。じわじわと襲ってきた睡魔の波に身体を預けた。ゆらゆらと溶けていく意識の中で耳元で微かに聞こえた藍のことばは次起きた時にもう一度聞こうと心に決めて。


触れた身体はいつもより熱い。
睡魔にのまれていくショウの耳元でこっそりと囁いた。
今日ばかりはこのことばを何を言うよりも最初に言おうとしていたはずなのに、結局同じ。いつも少しだけ意地を張ってしまうから。今日は目を覚ましたら一番に言うよ。たまご粥と、さっきの続きと一緒に。


だから今だけは、良い夢見てね。


「…Happy Birthday、ショウ。」