ほしぞら1/2

ぽつぽつ書いている二次創作小説たち。ジャンルごった煮。Twitter@bbb_kzs

【あかやち】To Your Lullaby

※谷地ちゃん2年生、赤葦くん3年生の捏造注意。

赤(→→)←←谷ぐらいが大好きです。実はべた惚れな赤葦イイ。可愛いです、あかやち。

 

2014.07.15.

 

 

 

 


ツン、と電源を落とした暗い液晶に指先が触れる。
「・・・会いたい、なあ。」
心の中だけに留めておこうとしたはずの言葉がうっかり口から零れた。こっそりと心の中で思うだけにしようとしていた思いが、言葉と一緒にあふれ出してしまいそうになる。
出来ないことは思っちゃダメ、仁花。
自分に言い聞かせるように小さく小さく口先にのせる。ふと見上げた宮城の夜空は晴れてこれでもかと散りばめられた星が瞬いていた。東京の空も同じように晴れているのだろうか。



合同合宿で初めて出会ってから1年と2ヶ月。
渡された連絡先に勇気を出して連絡をしてから1年とちょっと。
二度目の再会を果たしてから2ヶ月。

毎日会えるわけではない彼との思い出は片手で済んでしまうほどに少ない。そして彼のことは、数えるほどにしか知らない。
仁花よりもひとつ年上。梟谷の正セッターでキャプテン。見上げるほどに高い身長。無口で少しだけ負けず嫌い。なにより、その眼差しは優しい。
数え出してみれば案外浮かんできても、両手の指で済んでしまうほど。頭ではわかっていたことでも、その事実につんと鼻の奥が痛む。
宮城から東京は数百キロ。どれだけ想っていても、どれだけ焦がれてみても、彼は遠い。
じわりとにじんだ視界にあわてて上を見上げる。にじんだ世界では星が見えない。



ブブブブブ
「・・・えっ、あ!っ、もしもし!」
突然震えだした画面に浮かぶ名前に携帯を取り落としそうになりながらも、急いで指先で液晶を叩く。
『・・・もしもし。ごめん、急に。』
「やっ!特になにもしていなかったので!大丈夫ッス!」
『そっか・・・なら、よかった。』
耳に当てたスピーカーから聞こえるのはまさに今、思い描いていた相手。勝手に想って勝手に切なくなっていた、数百キロ先の彼。
「どうか、しましたか?」
『・・・あー、いや。ちょっと話したくなって。』
「・・・私もちょうど、話したかった、です。」
バ レー部を引退して、”受験生”になった彼は勉強漬けの毎日だろう。ただの知人程度である他校のマネージャーの自分はどう考えても彼の邪魔でしかない。それ でも一拍おいてスピーカー越しに聞こえたことばに、これぐらいは返してもバチは当たらないだろうか。ふっと息を吐いた気配に間違っていなかったのだろうか と少しだけ不安になる。
『よかった。珍しく東京の星が綺麗でさ、谷地さん星空とか好きそうだなと思ってさ。つい。』
「っ、好き!です!星!!・・・私もちょうど、見てました。こっちは快晴です。」
『うん、東京も晴れてる。』
「宮城もすごく星が綺麗に見えますよ。」
にじんでた視界を指で軽くこすれば、ほんの少し前までと同じように星がきらきらと輝きだす。さっきまではただただ遠く感じた東京も、同じ空でつながっているのだと考えた途端に数百キロだなんてなんでもないと思えるのだから現金なものだと思わず苦笑いが浮かんだ。
同じ空を見上げているだけで、いまは十分幸せだとふと上を向けば視界の端をすうっと光の筋が走る。
「『あ、』」
「・・・っいま!!流れ星が見えましたよ!!」
『・・・俺も。』
「・・・え?」
『俺も、流れ星いま見えた。』
「・・・。」
『同じもの、だったかもね。』
「そう、ですね。きっとそうですよ。・・・あ、願い事するの忘れちゃいました。」
『俺も。でもきっと、いいことあるよ。』
「・・・はい、きっと。」
同じ空を見上げて同じ時を共有しているだけでも十分”いいこと”なのだけれど。

「きっと、いや絶対良いことありますよ。」
『そんな気がするよ。・・・。』
夜の闇がふたりの時間を縁取って、言葉の切れ間の穏やかな沈黙にもう少しだけ、とふたりの時間を切望したくなる。少しだけ、ワガママになってしまう。
『明日も早いだろうし、もう寝ようか。』
「はい。」
『・・・おやすみ。』
「・・・おやすみなさい。」
プツリと微かな音の後にツーツーと電子音が通話を終えたことを知らせる。最後一拍空いた挨拶に、少しでも同じ気持ちでいてくれたらいいのにと思う。
それだけで私にとっては”いいこと”なのだ。そんなこと、きっと彼は知らないだろうけど。


些細なことを話せるだけでいまは幸せなのだと数百キロの距離に言い訳をして、少しずつ大きくなる想いからは目をそらした。それでも、胸の奥できゅっと音を立てたこの気持ちに名前をつける日は近いのだろう。けれどいまはただ、優しいこの気持ちを抱いて眠ろう。
「おやすみなさい、赤葦さん。」


この小さな予感はまだ、私だけのもの。