ほしぞら1/2

ぽつぽつ書いている二次創作小説たち。ジャンルごった煮。Twitter@bbb_kzs

【トキ春】Goodbye Lullaby

はい、遅刻です。おはやっほー!(本命なのに・・・土下座。)

HAYATOが絡むトキヤの話が大好きです、公式設定でも双子設定でも好き。

お誕生日おめでとう、トキヤ。いつも応援しています。

 

2014.08.12.

 

もそもそと微かな音と共に身体にかけたタオルケットが少しだけ身体から離れる感覚。
「おやすみなさい、春歌。」
鼻をくすぐるほのかな石鹸の香りと背中にそっとあたたかさを感じた、と同時に聞こえた小さな声。大好きなこの声を聞くためにいつも少しだけ夜更かしをする。

身 体を気遣ってくれているのか、帰るのが遅くなる時は連絡をくれる。最後には必ず先に寝ているように付け加えられて。その優しさには嬉しくなるし、言いつけ はしっかり守ろうと思う。それでも、それと同じぐらい自分は彼のことも心配していて、お互いそれなりに忙しい今は共に暮らしているとはいえ顔を合わせて会 える日は多くない。迷惑を、心配を、かけないようにとものわかりが良い彼女でいようと心掛けてはいても、どうしても寂しいと思ってしまう夜もあるのだ。そ ういうときは少しだけ、こっそりと夜更かしをして布団の中で息をひそめる。隣にそっと寝転ぶぬくもりと優しい彼の声を聞くために。

その声 が好きだと思ったのは、それを彼に伝えたのはいつだっただろうか。ふと思いだした記憶は想像以上に遠いもので思わずお互い年を重ねたのだと苦笑いが浮かん だ。自分が夢を追いかけ始めてまだ間もない頃、彼がまだHAYATOを名乗っていた頃。ただ純粋に音楽と向き合おうとしていた彼に、"一ノ瀬トキヤ"に、 伝えたのはそんな中だった。
"HAYATO" というトップアイドルは彼を苦しめたが、それでもHAYATOはたしかに彼の一部なのだ。偽ったアイ ドルも彼の一部であることの葛藤はもしかしたら今も少しだけ残っているのかもしれない。けれど彼とHAYATOは、HAYATOという1人のアイドルは、 自分の一部なのだと穏やかに画面越しに微笑みながら語る姿に思わずひとりで泣いてしまったのは記憶に新しい。それはデビューして間もない頃、HAYATO の七光りで生きていると言われて悩んでいることを初めて彼が話してくれたあの時に戻ったかのようだった。初めて彼の弱さに気づいた日。ずっと強いと、ひと りで生きてきた彼の強さを盲目的に信じていたことを思わず恥ずかしくなって私が泣いてもなんの解決にもならないのにと思いながらも涙してしまったこと。彼 がそれを嬉しいといって抱きしめてくれたぬくもりも、その時に微かに濡れていた夜空色の瞳も、私はきっと忘れないのだろう。


す うっと微かな寝息が背中越しに伝わってくる。疲れているのだろう、その呼吸は徐々に深くなっているようだった。カチリ、と小さく響いた針の音に時計を確認 する。彼を待ってこっそり夜更かしをするのはいつものことでも、今日は少しだけ特別。面と向かって言いたかったけれど、あと数時間、あなたが目を覚ます朝 まではおあずけにしましょう。でも一番に言いたかったから、こっそりとあなたに伝えます。
「生まれてきてくれて、私の隣にいてくれてありがとうございます。トキヤさん。…そして、トキヤさんを支えてくれてるHAYATOさまも。」
ぐるりと身体を反転させて見えた穏やかな寝顔に向けて小さく呟いたあと、少しだけ身体を起こす。軽く触れた唇は温かくてそのあどけない寝顔にふふふと笑みがこぼれた。
「…ありがとう。私は幸せ者です。」
「っ!?…い、一ノ瀬さん?」
「名前で呼んではくれないのですか?春歌。」
「え、あ、」
突然開いた夜空のような瞳に自分が映って身体がかたまってしまう。クスクスと小さく笑う彼に顔に熱が集まるのがわかる。学生の時よりも、デビューしたての時よりも、当たり前だけれど年を重ねて大人びて。それでもいつだってその柔らかく笑う瞳と歌を紡ぐ声には敵わないのだ。
HAYATOの名前がでてきたのはあまり面白くはないですが。まぁいいでしょう。たしかに…彼は私の一部ですから。」
優しく誰かに向けたかのように話す彼はきっと、もう大丈夫だろう。この先も私はずっと歩いていくのだ。歌を紡ぎながら、ふたりのとなりを。


おめでとう、HAYATO
彼の小さな声が震えていたのは見えないフリをして。


「お誕生日おめでとうございます、トキヤさん。」