ほしぞら1/2

ぽつぽつ書いている二次創作小説たち。ジャンルごった煮。Twitter@bbb_kzs

【景ざく】願ったしあわせは、

ひとりで突如ざくろの波にやられました。

(アニメやってる時にハマりたかったなあ。)

8巻の総角母とざくろのやりとりが大好き…それをこっそり総角がみてれば良い…

総角ざくろはもちろん、妖人省のみんなもあの世界のみんながとてもとても愛おしいです。

2015.07.06.

 

 

「あははは、ほんと予想の上をいくよね。ざくろくんは。」

「うるさいわね!仕方ないでしょ、"バテレン"の物は慣れないんだから!」

「…はいはい、そういうことにしておくよ。」

「もう用がないなら来なくていいでしょ!」

「僕がざくろくんに会いたかっただけだけど?」

たまたま通りかかった廊下、扉越しにも聞こえてくるほどの楽しそうな声に思わずふふと声が漏れた。

景と妖人省のざくろさん、捜査のためにとざくろさんが総角家で生活するようになって二週間と少し。以前来た時にも増して緊張している様子だったざくろさんも少しずつ慣れてきているらしく、毎朝出かける時にはいってきます、と笑って元気よく玄関ホオルを出て行く。娘がもう一人出来たようで、館の中が明るくなるような感覚になるのだから不思議な人だ。お母さまを亡くされた、と聞いたがそれでも普段は見ていて面白いほどに表情がくるりくるりと変わる。組子もあねさまが今回は長くいてくれるのね、と瞳を期待の眼差しでいっぱいにしていた。人当たりが良いとはいえ豪気な夫ですら洋物に興味を示すざくろさんを気に入ってるらしい。ざくろさんには周りを笑顔にする力があるのだろう、それはきっと景がなによりわかっているのだろうけれど。

腹を抱えて、愛おしいと言わんばかりに優しく、ざくろさんの隣にいる景はよく笑う。あの子のあんな笑顔を見たのはいつぶりだろうか。怖いものがなにより苦手で、それでいて父親の面子は潰せないと努力して色んなものを押し込めてきたあの子が見せる心からの笑顔はきっとざくろさんのおかげだろう。いつだってざくろさんを見る景の視線が柔らかいのがなによりの証拠だ。クスリとまた頬が緩むのがわかる。ざくろさんを映す瞳が、時折見せる仕草が、ざくろくんと呼ぶ声が、全てを物語っている。

 

*

 

ペンダントをつけてくれているのだと、大事にしてくれているらしいと景から聞いた時は純粋に可愛らしい人につけてもらえるのは嬉しいものだと思っていたけれど。

「…つけているとなんだか安心するんです。」

ふわりと微笑んだ目の前の少女はきっと、強く美しく、そして儚い。

館に来てから目にする時はほとんど笑顔を絶やさずに、くるくると表情が変わるのは以前訪れてきた時とほとんど変わらず。それでも時折、違うところを見つめて憂う様な表情をしているような気がした。問い詰めてみれば諦めたようにボソリと母親を亡くしたのだと、景が白状した。いろんなことがありすぎた、それでも自分の前では泣くことはなかった、彼女は強いと少しだけ悔しそうにつぶやいた景がどれだけ彼女のことを大切に思っているかは十二分に伝わって、ぽんと頭を撫でれば今にも泣きそうな景に幼い頃の姿が重なった。でもあの頃とはもう違う、あの頃よりもちゃんと成長している、大丈夫。

 

「私をお母さまの代わりと思ってくれると嬉しいわ。」

パチリとひとつ瞬きをしたと思えば、堰を切ったようにぽろぽろと涙を流すざくろさんはやはり可憐で素直で、そして脆い。きっと無理に強がって一度も泣いていなかったのだろう、肩をトントンと撫でるのに合わせてひくりと小さくしゃくりあげるような声が聞こえた。少しでもこの強く弱い女の子の支えになれたら良い、この小さな身体にどれだけのものを背負ってきているのかは計り知れないけれど、少しでも頼ってくれればいいのだ。

任務だよ、と落ち着いた頃を見計らって顔を覗かせた景の前では泣いた素振りなんてひとつも見せずにわかってるわよ!と言い返すざくろさんはいつも通り。ズルい、とでも言いたげにこちらを見てくるに景に微笑めば肩をひとつ竦められた。

ざくろさんを守るのは貴方の役目よ、景。





ふと、チリリンと鈴を小さく鳴らしながら廊下を駆ける五英の姿にざくろさんが重なる。夫には、いや組子以外には見えていない五英はざくろさんのおかげで景にも少しだけ認識されたらしく、景が帰って来るとそばを離れない。

 

まだ扉の向こうからはふたりのやり取りが聞こえてくる。洋物をバテレン、と言いつつも興味津々なざくろさんに景が色々と教えているらしい。

「ふふふ。いいわねえ、五英?」

きっと、あのふたりはこの先何があっても笑いあっていけるのだろう。これからもずっと。いつになっても大切な人たちの幸せを願わずにはいられない。

今日の夜はあの人と一緒にお茶でもしようかしら、ふと頭に浮かんだ夫の顔と思わず緩んだ頬に五英がわかってますよとでも言いたげに、にゃあんと小さく鳴いた。