ほしぞら1/2

ぽつぽつ書いている二次創作小説たち。ジャンルごった煮。Twitter@bbb_kzs

【景ざく】願ったしあわせは、

ひとりで突如ざくろの波にやられました。

(アニメやってる時にハマりたかったなあ。)

8巻の総角母とざくろのやりとりが大好き…それをこっそり総角がみてれば良い…

総角ざくろはもちろん、妖人省のみんなもあの世界のみんながとてもとても愛おしいです。

2015.07.06.

 

 

「あははは、ほんと予想の上をいくよね。ざくろくんは。」

「うるさいわね!仕方ないでしょ、"バテレン"の物は慣れないんだから!」

「…はいはい、そういうことにしておくよ。」

「もう用がないなら来なくていいでしょ!」

「僕がざくろくんに会いたかっただけだけど?」

たまたま通りかかった廊下、扉越しにも聞こえてくるほどの楽しそうな声に思わずふふと声が漏れた。

景と妖人省のざくろさん、捜査のためにとざくろさんが総角家で生活するようになって二週間と少し。以前来た時にも増して緊張している様子だったざくろさんも少しずつ慣れてきているらしく、毎朝出かける時にはいってきます、と笑って元気よく玄関ホオルを出て行く。娘がもう一人出来たようで、館の中が明るくなるような感覚になるのだから不思議な人だ。お母さまを亡くされた、と聞いたがそれでも普段は見ていて面白いほどに表情がくるりくるりと変わる。組子もあねさまが今回は長くいてくれるのね、と瞳を期待の眼差しでいっぱいにしていた。人当たりが良いとはいえ豪気な夫ですら洋物に興味を示すざくろさんを気に入ってるらしい。ざくろさんには周りを笑顔にする力があるのだろう、それはきっと景がなによりわかっているのだろうけれど。

腹を抱えて、愛おしいと言わんばかりに優しく、ざくろさんの隣にいる景はよく笑う。あの子のあんな笑顔を見たのはいつぶりだろうか。怖いものがなにより苦手で、それでいて父親の面子は潰せないと努力して色んなものを押し込めてきたあの子が見せる心からの笑顔はきっとざくろさんのおかげだろう。いつだってざくろさんを見る景の視線が柔らかいのがなによりの証拠だ。クスリとまた頬が緩むのがわかる。ざくろさんを映す瞳が、時折見せる仕草が、ざくろくんと呼ぶ声が、全てを物語っている。

 

*

 

ペンダントをつけてくれているのだと、大事にしてくれているらしいと景から聞いた時は純粋に可愛らしい人につけてもらえるのは嬉しいものだと思っていたけれど。

「…つけているとなんだか安心するんです。」

ふわりと微笑んだ目の前の少女はきっと、強く美しく、そして儚い。

館に来てから目にする時はほとんど笑顔を絶やさずに、くるくると表情が変わるのは以前訪れてきた時とほとんど変わらず。それでも時折、違うところを見つめて憂う様な表情をしているような気がした。問い詰めてみれば諦めたようにボソリと母親を亡くしたのだと、景が白状した。いろんなことがありすぎた、それでも自分の前では泣くことはなかった、彼女は強いと少しだけ悔しそうにつぶやいた景がどれだけ彼女のことを大切に思っているかは十二分に伝わって、ぽんと頭を撫でれば今にも泣きそうな景に幼い頃の姿が重なった。でもあの頃とはもう違う、あの頃よりもちゃんと成長している、大丈夫。

 

「私をお母さまの代わりと思ってくれると嬉しいわ。」

パチリとひとつ瞬きをしたと思えば、堰を切ったようにぽろぽろと涙を流すざくろさんはやはり可憐で素直で、そして脆い。きっと無理に強がって一度も泣いていなかったのだろう、肩をトントンと撫でるのに合わせてひくりと小さくしゃくりあげるような声が聞こえた。少しでもこの強く弱い女の子の支えになれたら良い、この小さな身体にどれだけのものを背負ってきているのかは計り知れないけれど、少しでも頼ってくれればいいのだ。

任務だよ、と落ち着いた頃を見計らって顔を覗かせた景の前では泣いた素振りなんてひとつも見せずにわかってるわよ!と言い返すざくろさんはいつも通り。ズルい、とでも言いたげにこちらを見てくるに景に微笑めば肩をひとつ竦められた。

ざくろさんを守るのは貴方の役目よ、景。





ふと、チリリンと鈴を小さく鳴らしながら廊下を駆ける五英の姿にざくろさんが重なる。夫には、いや組子以外には見えていない五英はざくろさんのおかげで景にも少しだけ認識されたらしく、景が帰って来るとそばを離れない。

 

まだ扉の向こうからはふたりのやり取りが聞こえてくる。洋物をバテレン、と言いつつも興味津々なざくろさんに景が色々と教えているらしい。

「ふふふ。いいわねえ、五英?」

きっと、あのふたりはこの先何があっても笑いあっていけるのだろう。これからもずっと。いつになっても大切な人たちの幸せを願わずにはいられない。

今日の夜はあの人と一緒にお茶でもしようかしら、ふと頭に浮かんだ夫の顔と思わず緩んだ頬に五英がわかってますよとでも言いたげに、にゃあんと小さく鳴いた。

【時依】瞳の中に映すもの

おかげさまで沼にどっぷりです。依都さんキャラ迷子。

ダイナー沼にハメてくれたゆえちゃんに捧げます、

お誕生日おめでとう!

 

2014.12.03.

 

 

こちらをちらりとも見ないままひたすらに優の話をする依都を視界の端に捉えながら、時明は昨日買った雑誌をめくり煎れたばかりのコーヒーを啜った。ゆったりとした、それでいてやや気怠げな空気が流れるこの朝を時明は嫌いじゃなかった。

たったひとつを除けば。

 

「YUUがさあ〜〜なあ。…なあってば、ときはる。」
「ん?なに?」
「…お前、聞こえてるなら返事しろよ〜。」
あ、やっと入ったか。呆れたように細められた鶯色の瞳に自分が映ったのを確認して、時明は少しだけ優越感に浸る。

お互い仕事やライブ中はファンのクレドみんなのYORITOとTOKIHARUでも、いつもこの瞬間だけは依都は時明しかみていないから。

「んー、だってよりと呼んでくれないでしょ、名前。」
「…あれ、ときはる拗ねてた?」
一瞬の間を空けて依都が驚いたように目を丸くする、時明がわかるぐらいほんの少しだけわざとらしく。

「うーん、拗ねたって言ったらどうしてくれるの?」
「とびっきりの愛を与えてやるよ?」
「ぷはっ、なんで疑問系?」
「…いーじゃん。」
「ふーん、じゃあお言葉に甘えて?」
「…ときはるこそ疑問系だろ。」
「よりとに合わせてみただけだよ。…で、何をしてくれるのかな?」

少しだけ不服そうな依都に時明は思わず自分の頬が少しずつゆるんでいるのがわかった。
「…っ、夜覚悟しとけよ。」
「それはこっちのセリフだと思うけど?まぁ、楽しみにしておくよ。」
「……ほんと食えねえよな、ときはるって。」
「ありがとう?」
「褒めてねえよ。」
心底呆れたと言わんばかりの表情を見せる依都に言葉を返せば、時明はどうしようもないと肩を竦められた。
「そう?まぁその前に仕事はちゃんと頑張ってよ、雑誌のインタビューとDVD収録。」
「当たり前。」
「YUUとかにちょっかい出し過ぎないように。こないだもそれで大変なことになったんだから。」
「…あれはゆうも悪りぃだろ。」
「YORITO。」
「…ったく。はいはいちゃんとわかってるよ。TOKIHARUさん。」
時明が仕事モードに入ったのを察するのはバンド内で一番依都が疎そうでいて早い。
それはプライベートでも同じことなのか、一瞬だけ時明の表情が変わったのを見逃さないのはさすがと言うべきか。
「うん、よろしく。」
「ほんと食えねえ。」
「そういうところも好き、なんでしょ?」
「…はいはい、そーですよ。好きですよ。」
「珍しく素直だね。」
「ふん、どっかのだれかさんが素直じゃねぇからな。」
「誰のことだろうねぇ。」
「すっとぼけんのかよ…。」
「さあねえ。……ま、俺も愛してるよ、よりと?」
「………んなの知ってるよ。」
くすりと笑った時明に一瞬理解が追いつかなかずぶっきらぼうに返した依都の顔が徐々に朱色に染められていくのを見て、時明は今度こそ優越感に心が満たされていくのを感じ、ぬるくなったコーヒーを一気に呷った。

【伊達主】きみだけが知っている

チハルのイラストからSS書かせてもらいました。

伊達主可愛いです。今後リーダースも絡めて書いていきたい所存。

嶺蘭の話とタイトルがかぶっていたので変更しました(2016.02.08)

 

2014.12.01.

 


「ーーきょうやさん、重いです。」
落とされた言葉とは裏腹にくすりと小さく笑った彼女の気配が預けた背中、直に伝わった。相変わらず素直じゃない、そんなこと言えばきっと頬を膨らませてむくれるのだろう。拗ねられるのは望みではないので、その言葉はこっそりと飲み込んだ。

ありがたいことに随分と忙しい日々が続き、休みの日といいつつも猛獣たちのフォローだとかなんだと事務所に缶詰状態、仕事に追われる日々だった。ちゃんとオフが取れたのはいつぶりだろうか。軽く目を瞑ればとくとくと聞こえる彼女の規則的な心臓の音とぺらりと彼女がゆっくりとページをめくる音。ゆるやかに流れる時間に少しずつ身体の力が抜けていくのがわかった。
ふと、小さく頭上から聴こえたやわらかなハミング。聞き覚えがあるとはいえ、
「…それ3Majestyの曲だろ。X.I.Pの曲を歌えよ、レディ?」

少しだけおどけたように呟けば、くすくすと彼女の笑い声が大きくなった。事務所が同じで戦友のようなライバルたちのものだとはいえ、つい口を尖らせてしまうのは彼女の前だから仕方ない。
「でもなんだかんだ京也さんも好きじゃないですか、3Majesty。…ふふ。拗ねてるんですか?」
面白がっているように尋ねられたそれは図星中の図星。いつもならおどけて誤魔化すだろうことも疲れがたまっていたからだろうか、少しだけ嫉妬のような気持ちを抱いていたのも自覚していた。素直に敵わないな、と思わず苦笑がこぼれた。
「だったら悪いか?俺だけを見ていてほしいんだから。」
言ってしまえと本音を零せば、余裕そうに小さく笑って揺れていた身体が固まったのがわかる。

顔を背けても見上げた斜め先でショートカットの髪から覗く朱色に染まった耳が見えていることには気づいてないんだろう。ふふふと今度は俺に笑いがこぼれる番だ。


愛しい。胸があたたかなものでいっぱいになる感覚に、ああそうかこういうことかと思わず柄にもなく泣きそうになった。
「…なあ。」
愛しい君にキスを落とさせて。どうかいつまでも隣にいられるように願いを込めて。 

【あかやち】また会いましょう、その日まで

谷地ちゃん、Happy Birthday!!

 

2014.09.04.

 

 

 

あ、笑ってる。

体育館の向こう側。コートをひとつ挟んだところでトスがあがった。長身ながらしなやかに動く黒髪を視界に捉える。少しだけ遠い、表情が見分けられるかどうかの距離。ほんの微かに孤を描いたように見える口元につられて思わず頬がゆるんだ。
あれは悔しそうな顔。木兎さんとのコンビネーションがうまくいかなかったみたい。
あれは呆れてる顔。拗ねるエースをおだてるのも楽じゃないって言ってたっけ。
あれは少しだけ、悲しそうな顔。あれは喜んでる顔。あれは誇らしげな顔。
あれは・・・照れてる、顔。

ふっと浮かんだその言葉に、ボンと顔が熱くなった。
「仁花ちゃん・・・?大丈夫?」
「ふぇあ!!?あ!だ、大丈夫でッシュ!!!」
「・・・そう?顔赤いしちゃんと水分とって体調気をつけてね?」
「ふぁい!!!!清水先輩もちゃんと休んでくださいッス!!」
「ふふ、ありがとう。」
今 日もお綺麗で・・・と美しく微笑んだ清水先輩に和みながらも、心配させてしまったことに少しだけ胸が痛む。マネージャーとしてまだまだ新米の私は先輩の何 倍も頑張って支えなきゃいけないはずなのに。お手を煩わせてしまった・・・。北国育ちというのもあるだろうが、元々夏というより暑いのはそんなに得意では ないのだ。けれど、この熱はきっと少しだけ違う。あつい、のはたしかだけど。

いつからだろう。あの広い背中を視界に捉えるようになったのは。
どうしてだろう。ほんの僅かにしか変わらないその表情を理解しようと思ったのは。
考えれば考えるほど身体に熱が集まって、ぼんやりとなにも考えられず意識が朦朧としてくる。
こ のままだと本当に清水先輩に心配された通りに倒れそうだと、ちょうど烏野の試合が終わったところでほとんど空になっていたみんなのドリンクホルダーを良い 口実とばかりにカゴいっぱいに抱えて体育館を出た。ちらりと出口で視線をやれば、偶然か否か、ばちりと鋭い視線と目があったような気がして慌てて階段を降 りた。うっかり足元の小石に足を取られてドリンクホルダーをばらまきそうになったのはきっとやっぱり、この夏の暑さのせいだ。

 

*


宮城から数百キロ南下して、関東での合同合宿。マネージャーとしての初の大仕事。誰よりも頑張らなければいけない、と意気込んで来たのに体育館に入ると自分よりも頭いくつ分も大きな選手たちを前に、初日から自分の居場所を見失いそうだった。
「なになに、烏野のチビマネちゃん名前なんて言うの!!可愛いね!!」
お まけにどこを気に入られたか、やたらと他校の人から話しかけられる。毎回毎回勢い良く迫られてなにもできずにただ立ち竦むだけしかできない。こんな相手様 が話しかけてくれてるのにしっかりと受け答えもできず、大して面白いことも言えない私って烏野の面目を潰してる!?合宿追放!?関東、いや日本から追 放…!?!?言葉も通じない海外にひとり置き去り・・・帰りたくても帰れないようにされる・・・!
「っ、せ!せめて日本には!!お許しをおお!!」
「え?日本?」
「……木兎さん。彼女困ってますよ。」
「な!?赤葦ぃ!!!」
すっと前に影が出来たと思えば、目の前が真っ白に覆われる。見上げた先にはゆるやかにクセがかかった黒髪。勢い良く話しかけてきていた"木兎さん"の視界から遮るように、目の前に立っている長身。”助けてもらったのだ”と気づくまでに数秒。
「なんだよ、赤葦。邪魔するなよ〜」
「初っ端から他校のマネージャー、しかも怯えてる相手になに迫ってるんですか。もうちょっと自分の身長やらなにやら自覚してください。」
「俺はただ単に烏野のチビマネちゃんと仲良くなろうと「監督が木兎さん呼んでましたよ。」
「お、監督が?…わかったよ。」
二言三言交わされた後、視界に色が戻りだしたと思えば目の前にいたはずの”木兎さん”はいなくなっていて、
「大丈夫?」
代わりにさっきまで見上げていたはずのくせのある黒髪が目線の高さにいた。つっと鋭い切れ長の瞳と同じ高さで視線が合う。その瞳に鋭くもその中でどこか優しそうな光を感じて少しだけ安堵してため息がもれた。

「あ、あ、あのっ!!ありがとございやした!!!!」
「いや・・・うちの、エースがすいません。」
「や、助けていただいて!!恩人様!!!こんな小娘ごときに!!」
「はは、なにそれ。ってあーそっか、名前…梟谷2年の赤葦京治です。」
「はっ!!助けていただいたのに、私名乗りもせずに!!!土下座でどうかお許しを!!!」
「土下座はいいから。」
「土下座じゃ足りないッスか!!土に埋まってお詫びをおおお!」
「あーいや、名前、教えてもらってもいい?」
「すいませんすいません!!・・・な、名前!ややや谷地仁花、と申します!」
「谷地、さん。合宿頑張ろう」
「は、はい!!」


赤葦京治、さん。
今更ながらに屈んでくれたのは背の高さによる威圧感を感じさせないようにしてくれていたのか。同じ目線の高さでまっすぐ見えた切れ長の瞳がゆるりとゆるむのに合わせたかのように顔に熱が集まった。
「赤葦ぃ〜〜!」
「あ、あの!呼ばれてますよ…私めのことはお気になさらず!!!」
「…あー、うん。」
遠 くで名前を呼ばれた赤葦さんは一瞬眉間にシワを寄せたかと思いきや、すっと立ち上がってじゃあね、と一言残して去って行った。去り際にぽんと頭に温かいも のを感じた気がしたのは夢か幻か。ふわふわとする頭のままアップを始めるという烏野のコートまで急いで足を動かした。初めてなことばかりな合宿だけれど、 少しでも私にも出来る仕事はきっとあるのだから。言い聞かせるようにして残った熱を振り払った。

*

「ちゃんとマネージャーも汗拭かないと風邪ひくよ。」
「ドリンク持つよ、重いでしょ。」
「ちゃんと食べてる?倒れないように気をつけてね。」
谷 地さん、谷地さん、と合宿中ことあるごとにいつもひょっこりと現れる存在に、最初は毎回腰を抜かして自分よりも何十センチも高くぱっと見鋭い眼光に立ち竦 むことしかできなかったけれど、赤葦さんに名前を呼ばれることに、ついどこから現れるのかと予想してしまうほどになったのは3日目だっただろうか。気をつ かってくれていたのか、私なんかとでも話が続くようにと話題を作ってゆっくりと答えを待ってくれる。それはほとんど初対面の相手であるはずなのに、心地よ く感じた。
どうしたのだと清水先輩、日向をはじめとした烏野のみんなから問われたのには答えようがない、だって私もわからないのだから。さすがに 月島くんから赤葦さんとなにかあったのかと聞かれた時には、私なんかが他校の正セッター様と言葉を交わして申し訳ありませんでした!!命だけはお助けくだ さい!!と叫びかけたのだけれど。(直ぐにお願いだからやめてくれと月島くんに押さえられた。)
私だっ てわからないのだ、いやむしろ教えていただ きたい。何故私が全国に名を連ねる都会の梟谷のメンバーに、ましてや相手はそんなチームの正セッターだ。最初に絡まれた時と常に変わらないハイテンション な”木兎さん”は梟谷のエースで、試合になった途端に変わる雰囲気に初めて見た時は圧倒された。けれどその木兎さんにトスをあげたり、よく見ていれば絶妙 にタイミングを変えたりと冷静にゲームメイクをしているのはセッターの赤葦さんだった。そんな方に声をかけてもらえるだなんて恐れ多いと思いながらも、彼 の技術は素人目から見てもただただすごいと言うのがよくわかってつい目で追ってしまう。
スッとまっすぐにあがったトスが吸い込まれるように高く高く跳んだ木兎さんの手のひらに収まったかと思えばネットを挟んだコートに勢い良く叩きつけられる。息のあった連携はすごい、ただその一言だった。
「面白いだろっ!ばれーぼーる!」
隣 から聞こえた日向の声にはっと横を見れば、口から脳内が漏れていたらしい。にこにこといつもと変わらない屈託のない笑顔を見せる日向の横には、一瞬の技も 見逃さないとでも言わんばかりにコートを見つめる、というより睨みつけているような勢いの影山くん。反対側にはきらきらとすごいよね!と楽しそうに笑う山 口くんと、いつものように関係ないデショと飄々と立っていながらもコートから目を離さない月島くんがいた。
「うん、すごい。」
コートから 目が離せないまま小さく日向の言葉に返せば、ちらりとコートの中からとんできた鋭い視線に瞳が合ったような気がした。すぐにそらされたけれど、微かにその 口角は上がっているように見えて。そのままぽんと軽く彼の手に触れたボールはネットを越えて相手のコートに落ちた。あれはたしか、
「・・・ツーアタック。」
「あんな綺麗なツーアタック、久しぶりに見た。」
すげえよな!と説明を混ぜながら熱く語ってくれる日向の言葉は耳を通り抜けて、彼の口角が今度こそにやりと音を立てて上がるから。頬が熱いのはきっと、夏の熱気がこもったこの体育館のせいだ。

 

*

長い長 い合宿はマネージャーとしてまだまだな私は自分の仕事をするのに精一杯だったけれど、烏野の人たちはもちろん、他校のマネージャー さんも笑顔で助けてくれたり、選手の人たちも大きくて最初は威圧感しか感じなかった人達も良い人ばかりでなんだかんだと楽しく過ごせたのには皆さんに感謝 してもし足りないぐらいだ。その分、謝罪して回っても足りないぐらいにたくさん迷惑もかけてしまったのだけど。それも全て笑って許してくれた。そんなみな さんに追いつけるように、足手まといにならないように、私は精一杯働かなくてはいけない。村人Bでも戦える、そう言ったのはどの口だったか。
「よしっ!」
ぱ しんと両手で頬を叩いて自分に喝を入れる。宮城に帰って頑張らないと。もっともっと大きくなってまた来年、今よりも成長して戻ってこれるように。そう思え ば疲れきっていたはずの身体が元気になってくるような気がするから不思議だ。あと一回、同じような夏を過ごせるのは来年が最後なのだから。ふと唐突に浮か んだ思いとぱちりと合う切れ長の瞳。あかあし、さん。自分より一つ年上の彼は来年はもう最高学年であり、それは彼の高校最後の夏であることを意味する。再 来年、自分が3年生になった夏に赤葦はいないのだ。2年後だなんて遠い未来のことのはずなのに、あの瞳と背中がない夏がくると考えただけで急に足元がぐら ぐらとおぼつかなくなったような感覚に襲われた。ただの顔見知り程度の関係であるのだから当の赤葦は気にもかけていないだろう、きっとこんなこと。さっき までこれから頑張らなくてはと意気込んでいたところだったというのに、一気に先が見えなくなるような感覚に襲われて気持ちが沈んでいく。
もっと話したい、もっと話してみたい、そう思っているのはきっと自分だけで、ましてや相手は他校でライバルで自分よりも年上なのだ。そんな願い、思うだけでもおこがましいのに。宮城に帰れば、一夏の思い出として忘れられるだろうか。

くすくす。
「あっ!?ああああ赤葦さんっ!?!?」
ふと近くで小さく笑う声がしたと思えば急に人の気配を感じ顔を上げた。そこには今の今まで頭に浮かんでいた赤葦京治張本人がすぐ目の前に立っていた。赤葦さんだと認識するまでに数秒。口からこぼれる奇声と共に思わず後ずさった。
「ふはっ、谷地さ、ん、百面相っ!」
その様子にまたふふふと普段からは想像できないほど、お腹を抱えてくしゃりと顔を崩して笑うから。じりじりと照りつける太陽が、夏のあたたかい風が、強くなったかのように顔に熱が集まった。

ひとしきり笑った後、ずいっと後ずさった分の距離を縮めるように近づいてきた赤葦さんに思わずまた後ずさりそうになる。と、その前に身体の横で直立していた腕を掴まれかなうことはことはなかったけれど。
「はい、これ。」
「うぇ!?!?あ、はい!?!」
掴まれた腕から熱が伝わってしまいそう。頭の中で悶々と悩んでいるうちに手のひらに小さな白い紙を握らされた。
「よかったら、じゃなくて連絡してほしい。じゃあ。」
「え…あ。あか、あしさん!」
「…またね。」
名前を呼べばこちらを向いて、引き結ばれていた薄い唇の端が微かに上がる。そのまま振り返ることなく歩いて行く背中をぼんやりと眺めていた。風にはためく白いジャージの裾が見えなくなるまで。
残ったのは優しい微笑みと丁寧に記された白い紙の上に踊る11桁の数字。急激に熱が集まるこの頬にきっともう、嘘はつけない。
「…また、ね。」
ぐっと握った手のひらの中で白い欠片が小さくかさりと、音を立てた。


小さな勇気と共に11個の数字を押せる時まで、
さようなら。

【トキ春】Goodbye Lullaby

はい、遅刻です。おはやっほー!(本命なのに・・・土下座。)

HAYATOが絡むトキヤの話が大好きです、公式設定でも双子設定でも好き。

お誕生日おめでとう、トキヤ。いつも応援しています。

 

2014.08.12.

 

もそもそと微かな音と共に身体にかけたタオルケットが少しだけ身体から離れる感覚。
「おやすみなさい、春歌。」
鼻をくすぐるほのかな石鹸の香りと背中にそっとあたたかさを感じた、と同時に聞こえた小さな声。大好きなこの声を聞くためにいつも少しだけ夜更かしをする。

身 体を気遣ってくれているのか、帰るのが遅くなる時は連絡をくれる。最後には必ず先に寝ているように付け加えられて。その優しさには嬉しくなるし、言いつけ はしっかり守ろうと思う。それでも、それと同じぐらい自分は彼のことも心配していて、お互いそれなりに忙しい今は共に暮らしているとはいえ顔を合わせて会 える日は多くない。迷惑を、心配を、かけないようにとものわかりが良い彼女でいようと心掛けてはいても、どうしても寂しいと思ってしまう夜もあるのだ。そ ういうときは少しだけ、こっそりと夜更かしをして布団の中で息をひそめる。隣にそっと寝転ぶぬくもりと優しい彼の声を聞くために。

その声 が好きだと思ったのは、それを彼に伝えたのはいつだっただろうか。ふと思いだした記憶は想像以上に遠いもので思わずお互い年を重ねたのだと苦笑いが浮かん だ。自分が夢を追いかけ始めてまだ間もない頃、彼がまだHAYATOを名乗っていた頃。ただ純粋に音楽と向き合おうとしていた彼に、"一ノ瀬トキヤ"に、 伝えたのはそんな中だった。
"HAYATO" というトップアイドルは彼を苦しめたが、それでもHAYATOはたしかに彼の一部なのだ。偽ったアイ ドルも彼の一部であることの葛藤はもしかしたら今も少しだけ残っているのかもしれない。けれど彼とHAYATOは、HAYATOという1人のアイドルは、 自分の一部なのだと穏やかに画面越しに微笑みながら語る姿に思わずひとりで泣いてしまったのは記憶に新しい。それはデビューして間もない頃、HAYATO の七光りで生きていると言われて悩んでいることを初めて彼が話してくれたあの時に戻ったかのようだった。初めて彼の弱さに気づいた日。ずっと強いと、ひと りで生きてきた彼の強さを盲目的に信じていたことを思わず恥ずかしくなって私が泣いてもなんの解決にもならないのにと思いながらも涙してしまったこと。彼 がそれを嬉しいといって抱きしめてくれたぬくもりも、その時に微かに濡れていた夜空色の瞳も、私はきっと忘れないのだろう。


す うっと微かな寝息が背中越しに伝わってくる。疲れているのだろう、その呼吸は徐々に深くなっているようだった。カチリ、と小さく響いた針の音に時計を確認 する。彼を待ってこっそり夜更かしをするのはいつものことでも、今日は少しだけ特別。面と向かって言いたかったけれど、あと数時間、あなたが目を覚ます朝 まではおあずけにしましょう。でも一番に言いたかったから、こっそりとあなたに伝えます。
「生まれてきてくれて、私の隣にいてくれてありがとうございます。トキヤさん。…そして、トキヤさんを支えてくれてるHAYATOさまも。」
ぐるりと身体を反転させて見えた穏やかな寝顔に向けて小さく呟いたあと、少しだけ身体を起こす。軽く触れた唇は温かくてそのあどけない寝顔にふふふと笑みがこぼれた。
「…ありがとう。私は幸せ者です。」
「っ!?…い、一ノ瀬さん?」
「名前で呼んではくれないのですか?春歌。」
「え、あ、」
突然開いた夜空のような瞳に自分が映って身体がかたまってしまう。クスクスと小さく笑う彼に顔に熱が集まるのがわかる。学生の時よりも、デビューしたての時よりも、当たり前だけれど年を重ねて大人びて。それでもいつだってその柔らかく笑う瞳と歌を紡ぐ声には敵わないのだ。
HAYATOの名前がでてきたのはあまり面白くはないですが。まぁいいでしょう。たしかに…彼は私の一部ですから。」
優しく誰かに向けたかのように話す彼はきっと、もう大丈夫だろう。この先も私はずっと歩いていくのだ。歌を紡ぎながら、ふたりのとなりを。


おめでとう、HAYATO
彼の小さな声が震えていたのは見えないフリをして。


「お誕生日おめでとうございます、トキヤさん。」

【あかやち】To Your Lullaby

※谷地ちゃん2年生、赤葦くん3年生の捏造注意。

赤(→→)←←谷ぐらいが大好きです。実はべた惚れな赤葦イイ。可愛いです、あかやち。

 

2014.07.15.

 

 

 

 


ツン、と電源を落とした暗い液晶に指先が触れる。
「・・・会いたい、なあ。」
心の中だけに留めておこうとしたはずの言葉がうっかり口から零れた。こっそりと心の中で思うだけにしようとしていた思いが、言葉と一緒にあふれ出してしまいそうになる。
出来ないことは思っちゃダメ、仁花。
自分に言い聞かせるように小さく小さく口先にのせる。ふと見上げた宮城の夜空は晴れてこれでもかと散りばめられた星が瞬いていた。東京の空も同じように晴れているのだろうか。



合同合宿で初めて出会ってから1年と2ヶ月。
渡された連絡先に勇気を出して連絡をしてから1年とちょっと。
二度目の再会を果たしてから2ヶ月。

毎日会えるわけではない彼との思い出は片手で済んでしまうほどに少ない。そして彼のことは、数えるほどにしか知らない。
仁花よりもひとつ年上。梟谷の正セッターでキャプテン。見上げるほどに高い身長。無口で少しだけ負けず嫌い。なにより、その眼差しは優しい。
数え出してみれば案外浮かんできても、両手の指で済んでしまうほど。頭ではわかっていたことでも、その事実につんと鼻の奥が痛む。
宮城から東京は数百キロ。どれだけ想っていても、どれだけ焦がれてみても、彼は遠い。
じわりとにじんだ視界にあわてて上を見上げる。にじんだ世界では星が見えない。



ブブブブブ
「・・・えっ、あ!っ、もしもし!」
突然震えだした画面に浮かぶ名前に携帯を取り落としそうになりながらも、急いで指先で液晶を叩く。
『・・・もしもし。ごめん、急に。』
「やっ!特になにもしていなかったので!大丈夫ッス!」
『そっか・・・なら、よかった。』
耳に当てたスピーカーから聞こえるのはまさに今、思い描いていた相手。勝手に想って勝手に切なくなっていた、数百キロ先の彼。
「どうか、しましたか?」
『・・・あー、いや。ちょっと話したくなって。』
「・・・私もちょうど、話したかった、です。」
バ レー部を引退して、”受験生”になった彼は勉強漬けの毎日だろう。ただの知人程度である他校のマネージャーの自分はどう考えても彼の邪魔でしかない。それ でも一拍おいてスピーカー越しに聞こえたことばに、これぐらいは返してもバチは当たらないだろうか。ふっと息を吐いた気配に間違っていなかったのだろうか と少しだけ不安になる。
『よかった。珍しく東京の星が綺麗でさ、谷地さん星空とか好きそうだなと思ってさ。つい。』
「っ、好き!です!星!!・・・私もちょうど、見てました。こっちは快晴です。」
『うん、東京も晴れてる。』
「宮城もすごく星が綺麗に見えますよ。」
にじんでた視界を指で軽くこすれば、ほんの少し前までと同じように星がきらきらと輝きだす。さっきまではただただ遠く感じた東京も、同じ空でつながっているのだと考えた途端に数百キロだなんてなんでもないと思えるのだから現金なものだと思わず苦笑いが浮かんだ。
同じ空を見上げているだけで、いまは十分幸せだとふと上を向けば視界の端をすうっと光の筋が走る。
「『あ、』」
「・・・っいま!!流れ星が見えましたよ!!」
『・・・俺も。』
「・・・え?」
『俺も、流れ星いま見えた。』
「・・・。」
『同じもの、だったかもね。』
「そう、ですね。きっとそうですよ。・・・あ、願い事するの忘れちゃいました。」
『俺も。でもきっと、いいことあるよ。』
「・・・はい、きっと。」
同じ空を見上げて同じ時を共有しているだけでも十分”いいこと”なのだけれど。

「きっと、いや絶対良いことありますよ。」
『そんな気がするよ。・・・。』
夜の闇がふたりの時間を縁取って、言葉の切れ間の穏やかな沈黙にもう少しだけ、とふたりの時間を切望したくなる。少しだけ、ワガママになってしまう。
『明日も早いだろうし、もう寝ようか。』
「はい。」
『・・・おやすみ。』
「・・・おやすみなさい。」
プツリと微かな音の後にツーツーと電子音が通話を終えたことを知らせる。最後一拍空いた挨拶に、少しでも同じ気持ちでいてくれたらいいのにと思う。
それだけで私にとっては”いいこと”なのだ。そんなこと、きっと彼は知らないだろうけど。


些細なことを話せるだけでいまは幸せなのだと数百キロの距離に言い訳をして、少しずつ大きくなる想いからは目をそらした。それでも、胸の奥できゅっと音を立てたこの気持ちに名前をつける日は近いのだろう。けれどいまはただ、優しいこの気持ちを抱いて眠ろう。
「おやすみなさい、赤葦さん。」


この小さな予感はまだ、私だけのもの。

【翔藍】ゆめであいましょう

男気全開!!!!

ってなわけで遅刻してしまったけど、いつも上を目指して男前な翔くんに捧げます。

お誕生日おめでとう!

 

2014.06.19.

 
 

 

がんがんと頭の内側から何度も殴られているような鈍痛。ぼーっとする頭は体温がいつもよりも高いことを告げる。
風邪、か。意識はぼんやりしつつもその二文字が頭に浮かべばこのいつもとは明らかに違う症状は納得だった。
たしかに最後に一日オフを取れた日はいつだったか思い出せないし、梅雨に入りころころと変わる天候に季節の変わり目は体調管理に気をつけるべきだということも理解はしていた、一応。
それでもこんなに寝込むのなんていつぶりだろうか。
それもよりによって今日という日に。

「おめでとう翔ちゃん。」
「おめでとう薫。」
きっ ちり日付が変わった時にかかってくる電話で互いを祝うのは毎年のこと。いつもと少しだけ違うのは電話口であっさりと医者の卵である薫に体調不良を見破られ たこと。そしてそのまま電車もバスもないこの時間に東京に向かってきそうな勢いに(彼ならやりかねない。)今日一日休養を取ることを約束になんとか押しと どめたのは数時間前のこと。
テンションが高く更に心配かからか普段よりも大きくなっていた声は頭痛と共鳴して増幅する。それでも心のどこかで安堵している自分がいるのはやはりずっと一緒にいたからだろうか。
アイドルになるために実家を出てからも治らないどころか輪をかけて兄好きに磨きがかかってきて過保護すぎないかとたまに呆れることのある彼でも、やはり自分にとってはなんだかんだ大切な弟なのだ。

ぼ んやりと自室の天井を見上げながら相変わらずな双子の弟のことを思い出しているとふと誰もいないはずのキッチンで物が動く気配がした。来客予定はないはず で、ましてやこの体調では誰がきても相手はできない。早々にお引き取り願おうと布団から出れば、床についた足元がふわふわとおぼつかないことに苦笑がもれ た。最近はしっかり鍛えて身体はある程度丈夫になったと思っていたのだけど、久しぶりの風邪は予想外に身体に影響があったらしい。


トントントントン
「おはよう。」
「・・・・・ああ、おはよ。」
「もう寝てなくて平気なら座って。もう出来るから。」
「おう・・・・・・・・・・って藍!?なにやってんだよお前!!!・・・っ。」
「なにってお粥作ってるけど。自分で大声だして頭に響くって、馬鹿なの?」

扉を開けた先にはテンポ良く小刻みに包丁を動かす碧の姿。間抜けな声に、呆れたようにこちらを向く藍のその碧色の瞳に頭を抱えた俺が映る。口元に微かに浮かんだ微笑みに少しだけ、体温が上がった気がした。
普段だったら滅多に見ることのない、自分の家の台所に藍がいるという不思議な光景ながらに中身は通常運転な藍に思わずくすりと笑いが漏れる。

「あーうん。…どうやって入った?っていうかなんでいる?」
「ん、たまご粥。少しぬるめに作ったからすぐ食べられると思うよ。はい。」
「おう、ありがとな。…って答えになってねえよな?」
「熱は?ちゃんと測った?はい、水分もろくにとってないでしょ?睡眠は…まぁそれだけ寝てられたなら十分かな。」
「え、あ、おう。」
「…カオル、だよ。」
「薫?」
「連絡して来たんだよ。夜中に突然"緊急"って長文のメール送って来るんだからなにかと思ったよ。」

そう言って少しだけ唇を尖らせる仕草は拗ねる時の癖。ボクは知らなかった。ボソリと呟かれた言葉にそういえば具合が悪いだなんて一言も藍に伝えてなかったことを思い出した。
「あーー。お前と薫がいつの間にアドレス交換をしてたかは今回はおいとくけど…その、悪かったな…。」
「別に。おかげでショウのところに来れたし。風邪の看病スキルはダウンロードしてきたから安心してよね。」
「ちょっと、ショウ。」
少しだけ誇らしげに微笑む恋人に思わず手が伸びる。抗議の声をあげながらも頬を染めるその姿に顔を寄せた。
「……愛してる。」

ぽろりと零れたことばは思いの外反響してーー

*

ぱちりと瞼を開ければ目の前には見慣れた白い天井。
「あ、やっと起きた。」
聞き慣れたアルトの声が聞こえたと思えば視界に映りこむ碧い髪。
「…え、藍?」
「おはよ、ショウ。…全く。あれほど体調管理には気をつけるように言ってたのになにも学んでないの?プロ失格だよ。」
「あー、うん。反省してる。…で、俺はずっと寝てた?」
「何言ってるの、そうだけど。もう夕方だよ。」
「え、あ、たまご粥は?」
なぜ自分が布団の中に戻っているのかという疑問にも襲われながらふと、手をつけていなかったたまご粥のことを思い出した。
「たまご粥?寝ぼけてるの?」
「…いや、なんでもねえや。」

呆れたように顰められた整った眉にそれ以上の追及は出来ず、ぼんやり夢だったのかと思いながらぽすりと再び柔らかい布団に舞い戻る。
「はい。水分ちゃんと採ってまた寝ること。今日はもう動くの禁止。」
「なんかもう寝過ぎちまったぜ…。起きていいか?」
「だめに決まってるでしょ。安静にって言ったってどうせショウ動くだろうから。ほら今日はちゃんと寝る!」
「……はーい。」
「おやすみ、ショウ。」
「ああおやすみ、藍。」
軽く目元を押さえるように触れられた手のひらはひんやりと冷たく。
たまご粥の謎も、顔を寄せたはずの藍の感触も、全て夢だったのか。
それでもいまここに藍がいるという事実に全てどうでも良くなって。じわじわと襲ってきた睡魔の波に身体を預けた。ゆらゆらと溶けていく意識の中で耳元で微かに聞こえた藍のことばは次起きた時にもう一度聞こうと心に決めて。


触れた身体はいつもより熱い。
睡魔にのまれていくショウの耳元でこっそりと囁いた。
今日ばかりはこのことばを何を言うよりも最初に言おうとしていたはずなのに、結局同じ。いつも少しだけ意地を張ってしまうから。今日は目を覚ましたら一番に言うよ。たまご粥と、さっきの続きと一緒に。


だから今だけは、良い夢見てね。


「…Happy Birthday、ショウ。」